インタビューは恋愛と一緒!? 第9回ライター交流会レポート
2016年7月9日、東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」で月例のライター交流会が行われた。ゲストを迎えたトークセッションのテーマは、「稼げるライター」に必要不可欠ともいえるインタビュースキル。未経験者や経験の浅いライターは、どうすればインタビューの技術を高めていくことができるのか。ベテランライター2人と、ライターに案件を依頼する編集者2人が、「インタビュー」について熱いトークを展開した。
【登壇者プロフィール】
■熊山 准(くまやま・じゅん)
1974年徳島生まれ。リクルートを経たのち『R25』にてライターデビュー。主な媒体に『スゴレン』『Mac Fan』『TRANSIT』など。2009年より現在まで、『サイゾー』巻頭グラビアのインタビュー記事を担当。自身のアバターぬいぐるみ「ミニくまちゃん」を用いたアート活動もおこない、2014年には初の個展を開催。ポリシーは「仕事は1日2~3時間」。kumayama.com
■荒濱 一(あらはま・はじめ)
1971年2月27日、東京都生まれ。上智大学文学部教育学科卒。株式会社しくみ代表取締役社長。ビジネス書作家、ライター、コピーライター。ビジネス(特に人材・起業)、IT/デジタル機器関連、著名人インタビューなど幅広い分野で雑誌・Webに記事を執筆するほか、日本を代表する大手企業のタイアップ広告を多数手掛けるなど、広告コピー分野でも活躍。徹底した下調べに基づき取材対象者の本音・魅力を引き出すインタビューテクニックには特に定評がある。座談会・対談などの司会の実績も多数。著書の『結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社ペーパーバックス/高橋学氏との共著)などの「仕組み」シリーズは累計14万部突破となっている。柔道初段。
■宮脇 淳(みやわき・あつし)
1973年3月、和歌山市生まれ。雑誌編集者を経て、25歳でライター&編集者として独立。5年半のフリーランス活動を経て、コンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立した。編集者・経営者として企業のオウンドメディアづくりを手掛けつつ、「品川経済新聞」「和歌山経済新聞」編集長を兼務。またフリーランス支援策として2014年、東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」を開設した。今年7月には、夜の社交場としてコワーキングスナック「CONTENTZ分室」をオープン。Twitter ID:@miyawaki
■田島 里奈(たじま・りな)
有限会社ノオト所属の編集者。働いていた地元のキャバクラで待機中に、mixiニュースでノオトを知ったことがきっかけで入社。担当案件は、トヨタ自動車のオウンドメディア「GAZOO」や、多様な生き方を伝えるメディア「クリスクぷらす」など。一児の母。Twitter ID:@tajimarina0115
● ベテランライター×ベテラン・中堅編集者
宮脇:司会を務める有限会社ノオトの宮脇です。今日は「ライターがギャラを上げる近道! インタビュー術」をテーマに、インタビュー力に定評のあるライター代表として、荒濱さん、熊山さんのお2人をゲストにお招きしました。まずは、簡単に自己紹介と現在の仕事内容を教えていただけますか?
荒濱:高校教師として3年半ほど世界史を教えたあと、退職してタイとインドの広告代理店に勤務しました。帰国後、ライターだった友人に誘われるままこの世界に足を踏み入れ、いまやフリーライター歴15年以上でしょうか。編プロや出版社に勤めた経験がないので、インタビュースキルはすべて自己流です。
最近多い仕事は、ビジネス系の記事広告や企業のオウンドメディアですね。ちょっと宣伝ですが、書籍では共著の『結局「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社ペーパーバックス)などの「仕組み」シリーズの売れ行きが好調で、累計14万部を突破しました。
熊山:僕は、就職難の時代に奇跡的にリクルートに滑り込むことができ、創刊直後の『R25』に関わることができました。ただ、もともと中学生のころからフリーのライターにあこがれていたので、「編集ではなく、原稿が書きたい!」と思い、独立してライターになりました。
仕事は、芸能人やグラビアアイドルのインタビューなど、エンタメ系が多いですね。あとは、ガジェット(電子機器)好きなので、テクノロジー系のオウンドメディア、広報関係など、幅広くやっています。
宮脇:熊山さんといえば、そっくりなアバター人形の「ミニくまちゃん」も有名ですよね。
熊山:そうですね。僕のことは知らなくても、「ミニくまちゃん」は見たことがあると言われることは結構あります。ブログの執筆でどこかに行くときでも、必ず連れていきますし。皆さんも、今日は僕の話は覚えなくてもいいので、この「ミニくまちゃん」だけぜひ覚えてもらえたら(笑)。
宮脇:ありがとうございます。続いてもう1人、編集者側としてノオト社員の田島も登壇します。
田島:よろしくお願いします。私は自動車案件を担当しています。5年前のノオト入社当時は、メーカーの開発担当者やカーレーサー、スポーツカーのオーナーなど、それなりの数のインタビューをしていました。
それが、ある日、自分のインタビューがものすごく下手なことに気がついてしまって(苦笑)。現在では、インタビュー力のあるライターさんに、編集者として案件を発注しています。
宮脇:私もノオトを立ち上げる前は、5年半ほどフリーランスで相当数のインタビューをしてきました。音楽系の仕事が多かったんです。今は、会社の経営側に回って自らインタビューする機会は減りましたが、逆にインタビューしていただくこともちょくちょくあるので、される側の立場や気持ちがよくわかるようになってきました。
● インタビュースキルは「筋肉」のように鍛えられる
宮脇:では、さっそく本題です。私は、インタビューは「習うより慣れろ」の世界で、やればやるほど、うまくなると思っています。そのため、ある程度の回数はどうしても必要だと思いますが、荒濱さんはどう思いますか?
荒濱:「慣れ」は、すごく大きいですね。実は、ライターとして15年以上たった今でも、文章がうまくなっているかどうかは自信がないんです。大昔に書いた文章を読み直して、「おお! この文章うまいな!」と思うときもあれば、今でも執筆時にものすごく悩むこともあるし。
ただ、インタビュースキルは確実に上がったと実感しています。それだけ「場数を踏む」ことは大事です。
熊山:インタビュースキルって筋肉と同じで、ずっと使い続けている状態ほど一番調子がいい。会社員でも、週末の2日間誰とも話さなかったら、月曜の朝にうまく声が出せないことってありませんか? インタビューも、それに近いものがあると思います。
宮脇:「やり続けることで磨かれていく」ということですね。ライターとして、インタビューの醍醐味や面白さ、難しさって、それぞれなんだと思いますか?
荒濱:面白さでいうと、僕はもともと人と話すのが好きなんですよ。自分が知らない世界の人と話すのが大好き。飲み会も大好きで、「この人面白い」って思ったら、朝まで1対1でとことん飲むこともあります。それが仕事としてできるインタビューは、やっぱり面白いですよね。
醍醐味でいうと、例えば企業取材で技術者にインタビューすることもよくあるんですが、技術系の人から話を引き出すのは結構苦労することも多いんですね。そんななかで、取材先広報の人が「◯◯さんが、こんなに話すのを初めてみました」と言われたときなんかは、やっぱりうれしいです。
熊山:現場が盛り上がると安心しますよね。ただ、僕、先輩編集者から「テレビ番組ではないからインタビュー現場は、別に盛り上がらなくてもいい。最悪、険悪な中で終わっても、原稿さえ面白ければいい」と言われたことがあるんですよ。
確かに、読者にとっては原稿がすべてで、その場の雰囲気は一切関係ない。当時は、「そういうものか」とは思ったんですけど、やっぱり現場では相手にも楽しく心地よく話してもらうほうがいいじゃないですか。
荒濱:もちろん、そう思います。
熊山:ただ、それが行きすぎちゃうと、インタビュー相手を気持ちよくさせたはいいけど、結局、実のある話は何も聞けませんでした、となる危険性もある。特に質問のNG事項が多いアーティストとか。インタビューでは、そのバランスがすごく難しい。
そんな中でも、ちゃんと独自性があるコメントが取れて、その原稿を読んだインタビュー相手や編集者、読者から「よかったよ」と反響があって、次の仕事につながる。それが、醍醐味ですね。
宮脇:インタビューを行うライターの「指名」は、結構ありますよね。逆に、「あのライターさん、次からNGで」というパターンもありますが(苦笑)。
● インタビュー相手と朝まで飲んだことも
宮脇:田島さんがインタビューを苦手に感じている理由は? 普段のコミュニケーションはまったく問題ないというか、むしろよく話すほうなのに。
田島:インタビューは、自分が話すものではないじゃないですか。相手が無言になる時間も大事だし、その沈黙の時間で相手にプレッシャーをかけたり、思考を促したりしなきゃいけない。
インタビューの醍醐味や面白さには、やり取りの中でインタビューイ自身が気づいていなかったことを考えさせて、言葉として引き出す瞬間があると思うんですけど、私はそれを黙って待てないんですよ。
先回りして「それって、こういうことですよね」と、記事が面白くなる方向に、どんどん話を振ってしまう。そこから苦手意識を持っています。
熊山:相手が言葉に詰まったとき、助け舟のつもりで言葉をはさむことが、喜ばれるときと嫌がられるときがありますよね。それはそれぞれの現場での見極めも必要。
宮脇:それが、まさにインタビューの難しさですね。そこを踏まえて次の質問です。「印象的なインタビュー、マイベストインタビュー、マイワーストインタビュー」をお伺いしたい。
熊山:ベストインタビューは、自分も長年ファンだったアーティストのインタビューです。取材時に逆質問で、「私の歌で、あなたのベストソングは?」って聞かれたときに、シングルB面のマニアックなカバー曲を挙げたんです。
やはり、こちらの「好きだ」という気持ちが伝わると、現場の雰囲気は良くなる。原稿も気に入ってもらえて、そこからファンクラブ会報誌の仕事も依頼されて。あれは本当に光栄でした。
ワーストは、某著名人にインタビューしたときです。当時、テレビにもよく出ていた方で、その人の発売直後の書籍もすごく話題になっていました。結構ボリュームが必要なインタビューだったんですが、現場では「その話知っているよね」という感じで、「例の」「あの」みたいな抽象的な言葉ばっかりになってしまって。
それ以来、ある程度知られていそうなエピソードについて聞くときは、「すいません、もう何回もいろんなところで話していると思うんですけど」とか「新しい読者、新しい世代の人に向けて、もう一度説明してくれませんか」といった前ふりを入れるようにしています。
宮脇:本人は、もう何百回と話していたりしますからね。他の媒体、他のライターといかに差をつけるか。こういう心構えも重要ですよね。荒濱さんは、いかがですか?
荒濱:ワーストは、ノンストップで話す相手を遮れなかったときです。某企業の社長から、創業時の話を延々と……。そのまま日がとっぷり暮れて、「よし、飲みに行くか!」と(苦笑)。せっかくなので、行きましたけどね。インタビューは双方に時間の余裕がありすぎると、危険ですね。
熊山:長時間話しても、同じ話の繰り返しで、意外と中身がなかったりしますよね。
宮脇:インタビュー時間は、どれぐらいが適正だと思いますか?
熊山:15分とか短すぎるのも、聞き出せる余裕がないからよくないですね。雑誌1Pで40分ぐらいがベストでしょうか。撮影込みで小1時間ぐらいが、相手の心理的負担も少なくて、僕はちょうどいいです。
● 事前準備では「事実」だけを調べていくのが吉?
宮脇:インタビューの下調べや事前準備は、どれぐらいされますか?
荒濱:小心者なので、かなり準備していきます。現場に行って「こんなことも知らないで話を聞きに来ているのか」と思われるのは嫌なんですよ。「なんですかそれ?」って繰り返すと、「そもそもなんでこのライターをアサインしているの?」ってなっちゃう。
特に、技術系の話を聞きに行くときは、専門用語の勉強もかなりやっていきます。それこそ、インターネットがない時代は、世田谷に住んでいたこともあって「大宅壮一文庫」(※入館料300円。雑誌専門図書館)にもよく行っていました。
ただ、さきほど熊山さんのワーストインタビューのケースもそうだと思うんですが、相手のことを調べ過ぎても、インタビューが予定調和というか、新鮮味がなくなってどこか面白くない。その塩梅は難しいですよね。
熊山:僕は、あまり下調べしない派ですね。門外漢の仕事を受けないから、できることでもあるんですが。難しい話のときには、その場で「それは、かみ砕いて言うと、こういうことですか?」と、その場ですり合わせしますね。
あとは、案件の分量でも変わります。例えば、映画監督のインタビューで雑誌4Pの特集なら、過去作品もすべて見ていくけど、半ページの紹介なら、最新作だけチェックする。そんな感じです。
荒濱:以前、夕刊紙の新聞記者が、本の著者に最新作についてインタビューを行うのに、最新作を読まずに来ていたシーンを見たことがあるんですよ。著者は「この本について聞きに来たのに、まったく読んでいないってどういうことだ」と、怒って帰っちゃった。
貴重な時間をいただく訳だから、最低限、その人のことを調べていくのは当然の礼儀だと思う。ただ、どれだけ準備するかの塩梅は確かに難しいとは感じますね。
田島:事前準備については、私、正解だと思う持論があるんですよ。
荒濱:おお、それはぜひ聞きたい。
田島:事前準備では、「事実」だけを調べるようにしています。自動車開発のインタビューなら、開発者が何年にどんなクルマを出して、どんな技術を使って、どれだけ売れたかというデータを仕入れていく。芸能人の方なら、何年にデビューして、何年にこの映画に出演したとか。そういった「事実」は全部調べて、頭に入れておく。
一方、インタビュー対象者の「感情」や「心の動き」は、ほかの記事などで調べ過ぎてしまうと新鮮さや面白味が失われてしまうんですよね。何度か失敗を繰り返して行きついた答えなんですけど、自分の中ではこれが「正解」だと思っています。
熊山:「星の位置だけ覚えて、星座は知らない」みたいな。
宮脇:すごい。名言が出ましたね(笑)。
● リアクションは、大げさぐらいがちょうどいい
宮脇:では、次の質問にいきます。取材対象者との距離の取り方、間の取り方、様子の見方など、インタビュー時に気を付けていることがあれば教えてください。
荒濱:話を聞くときは、少し大げさなぐらいリアクションを取ります。すごくよく笑いますし、声には出さないけど相づちもよく打ちます。インタビューって、「私はあなたにすごく興味を持っています」という想いが相手に伝わらないと、絶対に心を開いてくれないんですよ。
「上司に言われてきました」「仕事だから来ました」みたいなやる気のない人間より、目をキラキラさせながら「あなたの話が聞きたくて聞きたくて仕方がない」という人間のほうが、絶対に話しやすいでしょ。
事前の下調べをしっかりしていくのも理由は同じで、「あなたに興味があって調べてきました」という心意気を示す手段なんです。
熊山:さっきの夕刊紙記者の話で思い出したんですけど、新聞記者の人って、ある程度自分の頭の中で構成を組み立てて、それに沿うようにYESかNOで答えられるクローズドな質問をするケースが多いって聞きませんか?
宮脇:短い記事だと書けることが限られますからね。
熊山:以前は、僕もそういうクローズドな質問をする時期もあったんですが、インタビュー原稿は、それだとやっぱり盛り上がらない。相手に考えさせて、相手の言葉を引き出す質問をしたほうが、内容は膨らみますね。
宮脇:田島さんは、いろんなライターさんのインタビューに同席していて、何か感じることはある?
田島:大きく分けると、2パターンありますね。「インタビュー中は介入してこないで」というライターさんと、「どんどん介入して」というライターさん。あの……もしかしたらなんですけど、「介入してください」という人は、準備不足なのかなと思います。インタビューを多く行っていたときの自分が、そうだったので。
宮脇:編集者の立場からすると、ライターには任せたいと思いますね。やっぱり信頼して指名しているので、こちらが余計なことは聞きたくないというか、余計な茶々を入れることで失敗するのが怖い。
熊山:聞かなきゃいけない質問が抜けているときに、編集者からフォローしてもらえるとありがたいです。テンパっているときはいくらでも口挟んでください、というときもあります(笑)。あと、最後には必ず振りますよね。
田島:最後に話を振られるのはいいんですよ。締めの挨拶もあるし。ただ、私も宮脇と同じで、インタビューって、インタビュワーがインタビューイの心を開かせる作業でもあるから、そこに下手に介入して組み立てを邪魔したくないんです。インタビュー中に横で聞いていて、「これはいいインタビューなのかどうか」というのは途中では判断できません。
例えば、インタビュワーの質問の順番は、傍から見ると理路整然としていないこともあるじゃないですか。でも、原稿を書くときに、読者が読みやすいように話の順番を入れ替えればそれでいい。原稿を見ないとわからないことなので、その場では介入しません。なので、インタビュー途中で、最後の撮影の段取りをカメラマンと隅っこでこっそり打ち合わせしていたりする場合は、その間の話を聞き漏らしているときもあったります。
荒濱:編集者は全体を見る役目があるのはわかるけど、できれば最初から最後まで隣にいて聞いていてほしいとは思いますけどね。僕も確かに口を挟まれるのは嫌だけど、質問が抜けたりすることはどうしてもありますから。
熊山:仕事ができる編集者は、現場で細かな気配りをしてくれますよね。たとえば、室内のBGMが大きい場合はそれを抑えてもらうとか、カメラマンに指示して事前に撮影場所をテキパキと決めるとか。
あと、そもそもライターだけでインタビューに行く場合もあるわけですが、編集者が同席していなかったケースでニュアンスの違う原稿のダメ出しをされると、やっぱりもやもやしちゃいますね。その場の臨場感を原稿に入れてナンボというのもあるので。
荒濱:あと、インタビューしている横でパソコンを触りながら、別件のメールを返信したりする編集者もいたりしますよね。あれは場の雰囲気を乱すし、インタビューイが「俺の話、つまらないのかな」って不安に感じてしまうので、やっぱりやめてほしいかな。
宮脇:パソコンといえば、インタビュー時にメモを取る・取らない論争って昔からありますよね。最近では、パソコンでメモを取るのは、ありか・なしかといった議論もあります。お二人はインタビュー中のメモをどうしていますか?
荒濱:パソコンでメモを取るのは、自分がインタビュワーの時は、相手の顔をきちんと見て話せないから僕の感覚では完全に「なし」なんですが、ただ時代は変わってきていますね。
熊山:僕はiPadがメモ帳替わりです。その場の雰囲気に応じて手書きでメモしたり、キーボードで打ち込んだりしています。パソコンに関しては、昔、取材慣れしている某企業の社長から「パソコンは相手と『壁』ができる。ついたて越しに話している気がする」と言われたことがあるので、そこは気を付けていますね。
そもそも手書きかパソコンにかかわらず、何をメモされているか不安になる人がいますよね。一方で、話にだけ集中して一切メモを取らないと、音声を録音しているとはいえ、「ちゃんと書いてくれるのかな」と不安に感じる人もいるようです。
なので、メモをするのは「いますごくいいこと言ってくれましたね!」ということを、相手にもアピールする意図で行っています。荒濱さんのリアクションと同じ感じですね。
宮脇:そういえば熊山さんは、面白いアプリを使っていますよね。
熊山:いまは、iPadで「Notability」という録音とメモが同時にできる有料アプリを使っています。iPad上に質問をテキストで用意しておけば、次の質問に移ったときに音声上に印をつけておくと、あとでそこから聞くこともできるんですよ。
事前に資料があればそれを撮影しておいて、画像の上から直接書き込みができるし、その場で撮った写真も同じメモ上にはさみ込める。簡単なインタビューなら文字起こしの手間もなくて、すごく便利ですよ。
荒濱:おお、めちゃくちゃ便利そう。
宮脇:インタビュー後、原稿を書きやすくする方法を考えたり時間短縮の工夫をしたりするのは、もっと研究の余地はありそうですね。
● 飲み会では「目の前にいる子で1000文字書く」と気合を入れる
宮脇:第一線で書き続けているライターならではの具体的なノウハウが出てきましたが、インタビューの現場以外でインタビュースキルを磨く方法ってありますか?
荒濱:「飲み会」を甘く見ちゃいけないと思いますね。「人から話を引き出す力」を磨く場所として、飲み会は最適です。一緒に飲んでいる人の面白い話を引き出せない人は、たぶんインタビューでも面白い話は引き出せない。
宮脇:僕もお酒は好きなので、飲み会の有効性はすごく感じますが、「お酒を飲めない人はどうすればいい?」という話にもなりそうです。
そういえば、私は熊山さんとはずいぶん長い付き合いですが、飲み会の席では絶対にお酒を飲まなかったんですよ。最初は下戸で飲めないのかと思っていたら、実は禁酒していただけだったという。お酒を飲まないのに、飲み会では必ず朝までいましたよね。
熊山:そうですね。実は10年近く断酒していたのですが、ちょっと前に解禁しました。酒を飲まなくても飲み会に最後までいたのは、「熊山は飲まないから一次会で帰る」とか思われたら、なんだか悔しいと思ったから(笑)。まあ、お酒を飲まないから記憶もはっきりしている分、飲まないなりの楽しさはありますよ。
宮脇:酔った相手の変な行動をいじるとか(笑)。
熊山:そうそう(笑)。そういえば、AKB48の専属ライター的なポジションで活躍しているSさんという方がいるんですが、Sさんは飲み会で普通の女の子と話すときも、「この子で1000文字書く!」と気合を入れて会話すると言っていました。
数人で飲んでいるときに、あまり話さない人がいたら、「この人の話が、取れてない!」と必ず均等に会話を振るそうです。そうやって普段から“インタビュー脳”で生活すると、そりゃ鍛えられますよね。
宮脇:なるほど、飲み会の席も自主トレにしているわけですね。
荒濱:僕は、「この人面白い」って興味を持ったら、1対1でじっくり話します。大勢で話すのもいいけど、マンツーマンのほうがより深く相手のことを知ることができますし。
インタビューって、「恋愛」とすごく似ていると思うんですよ。興味を持った相手に、振り向いてほしかったら、まず相手の話をしっかり聞きませんか? 一方的に自分語りをするライターって最悪でしょう。
田島:確かに、インタビューは「相手の心を開く作業」なので、そこは恋愛と同じですよね。
荒濱:男女じゃなくてもいいんですけど、結局、普段の「人と人とのコミュニケーション」をいかに大事にするか。それに尽きるんじゃないかと思います。例えば、僕は旅がすごく好きなんですけど、知人が誰もいない土地に行って、その場で出会う人と仲良くなるとか。
自転車置き場で管理人さんと会ったら、「今日は暑いですねー!」とか必ず話しかけるんですけど、そうやっていろんな人と話す習慣はインタビュー仕事に役立っていると思います。いつ、どこに面白い話が転がっているかは分からないですしね。
宮脇:そういえば、私もタクシーに乗るときは、運転手さんと必ず会話しますね。「今日は、道が混んでいますね」とか話しかけると、相手によっては、なぜ混んでいるかを分析して教えてくれたり、我々が知らない情報を与えてくれたりする。お互いの会話のリズムを計りながらやると、タクシーの中もいいインタビューの練習場所になります。
熊山:インタビューでも文章書くことでも、「仕事じゃなくてもやれている人」は、すごく強いと思う。誰かからお願いされているわけでもないのに、できているわけですから。
普段から、職場や仕事関係の人と仲良くなって、社交辞令以上の言葉を引き出せるようになるかとか、自分と属性がぜんぜん違う人と仲良くなる技術を鍛えるとか。そういうのも大事ですよね。インタビュー力を鍛えるなら一度、接客の仕事をやっておくといいかもしれません。
荒濱:普段、人に興味を持てない人間が、いきなりインタビューに行って、いざ話を聞くのは難しいでしょうね。まあ、ライターや編集者になる人間で、「人に興味を持てない人」はそもそもそんなにいないとは思いますが。
● 10年後「ライター」が生き残っていくために
宮脇:では、最後の質問です。ベテランの域に入ってきたお二人に、「ライターとしての将来像」について伺いましょう。
熊山:インタビューとは関係ないかもしれませんが、いま、一番の脅威は「botライター」ですね。簡単な原稿はAIが書けるようになりつつある将来、botとどう戦っていくか。そもそも戦えるのか。その脅威を感じています。
やっぱり同じ土俵に立つと、人はテクノロジノーの進化には勝てません。昔、出版業界では不可欠だった「写植」の仕事はなくなってしまったし、デジカメの普及でカメラマンも相当苦戦している。そこにbotライターが進化してきたら、はたして「ライター」という職業は生き残っていけるのか。
今後、生き残っていくためには、「ライター」としての単一スキルだけでなく、もうひとつ、プロフェッショナルな能力を身に着ける必要があると考えていて、いまそれを探しています。ありがたいことに、ライターの仕事ほど自分がやりたいことを探しやすい職業はないと思うんですよ。
名刺1枚でどこにでも飛び込んで行けて、いろんな人に話を聞きに行ける。いろんな人の人生を疑似体験できる。それを俯瞰して、さて自分は何をしようかと考えられる。ライターならではの特権だと思いますね。
宮脇:確かに私も今の時代、「ひとつの道をとことん究める」というやり方は、職業によっては厳しいと思っています。仕事は掛け算というか、例えばライターとして平均以上のスキルを身につけつつも、その一方でやたらと農業に詳しくなる。なんなら自分で水田まで持っちゃう。そんなライターは面白いじゃないですか。
もっと実務的な話になると、「カメラも得意です」「簡単な図版制作もできます」とか、そういうのをいくつか掛けあわせるのも一つの強みになります。もちろん、中途半端なスキルだと通用しませんが、それぞれのレベルを高めれば、他のライターに差をつけるというか、その人ならではの希少価値になってくる。
熊山:編プロやりながらコワーキングスペースも提供して、さらにスナックまで開いて、和歌山にも拠点がある。ノオトさん、最強じゃないですか(笑)。
宮脇:弊社の宣伝ありがとうございます(笑)。ライターや編集者って、いろんなことに興味を持つ人間が多いので、みんなと少しずつ情報や場所もシェアしていきたいな、と。「選択と集中」を意識する一方で、仕事の多様性を意識するといいますか、どこか矛盾した感覚を忘れてはいけないような気がするんですよ。まあ、これは小さいながらも組織のトップとして意識しています。荒濱さんは一ライターとして、将来をどう思い描いていますか?
荒濱:僕は、長いノンフィクションを書きたいですね。書きたいというか、テーマを定めて深く書けないと、それこそ生き残っていけないと思う。僕が編集者の立場なら、年齢も単価も上がってきて主張が強いライターより、若くて単価も安くてフットワーク軽く何でもやってくれるライターがいたら、絶対そっちに頼むと思うんですね。
若いライターと「早い・安い・簡単」の土俵で、戦っても勝ち目はない。しっかり手をかけて丁寧に書いていきたい。ただ、最近やたらと若い人から相談を受けることが多いので、熊山さんが言うように、50歳までにはライターとして積んできた経験の中から何かもう1つ生かせることを考えるのも手だな、と思いました。
宮脇:この中で唯一20代の田島さんは、5年後、10年後のプランはありますか?
田島:正直、5年後に自分がどんな生活をしているのか、まったく想像できないです。どこに住んでいるのかも分からない。「編集者」の肩書がある今でも、毎日8時間、記事の編集作業をやっているわけでもないんです。ディレクションをやったり、今日のようなイベントを企画したり、肩書の枠を超えた仕事はいろいろとあります。いま、目の前の仕事を全力で頑張るだけで精一杯ですね(笑)。
宮脇:なるほど。では、せっかくなので、会場からも質問を募ってみましょう。
<Q&Aタイム>
Q:インタビューの現場で、鉄板の“場の温め方”があれば教えてください。
熊山:名刺に、名前をすごく大きく印刷しています。くすっと笑ってもらいやすいし、名前も覚えてもらいやすい。
荒濱:僕も名刺は工夫していますね。似顔絵を入れたり、近著の書影や「14万部突破!」とPR事項を入れたり。「ちゃんと経験があるライター」だと相手にも安心してもらえるし、それがきっかけで本を読んでくれることもあります。
場の温め方として、これは僕だけにしかできないかもしれないですが、見た目がとてもいかついので、挨拶するときに満面の笑みを作って、そのギャップで場を和ませます(笑)。あとは、強引にでも共通点を見つけて「ああ、僕と一緒ですね!」ってやっています。おかげで、行きつけの飲み屋では「寄せの荒濱」と呼ばれています(笑)。
宮脇:たとえば、インタビューの1つ目の質問で、場が温まるような質問を用意していくといいですよね。コラムニストの石原壮一郎さんの著作『大人力検定』シリーズを読んでおくと、あらゆる場面における応用力がつくんじゃないかと思います。
Q:ライターです。担当編集者と相性が悪いときは、どうすればいいですか?
熊山:僕は元編集者でもあるので、気になることがあるとずばっと言っちゃいます。嫌な人との仕事は、魂が汚れちゃうから、縁が切れたら切れたでそれもよし。せっかくフリーランスなんだから、わざわざ嫌な人と無理して仕事しないでもいいと思う。
宮脇:「相性」というものは絶対ありますからね。もし、その担当編集者が嫌でも、媒体としては続けたかったら、早めにほかの編集者ともつながっておくとか。
荒濱:もめるときは、メールでやり取りしないで、電話や会って話す。特に、お金の話でもめたときは、絶対にメールだけでやり取りしないようにしています。メールでやり取りしていると、微妙なニュアンスが伝わらず、お互い感情的になってヒートアップしちゃうことがあると思うんです。その点、電話で話すと、「ああ、そういうことを言ってたんですか」となったりする。もちろんもめた時にこちらが不利にならないよう、事前に原稿料などの条件などについてはメールでやり取りしてエビデンスを残しておくことも大事だと思いますが。
あと、僕がライターになりたての頃は、「事前に原稿料などの交渉はしない」みたいな人もいましたが、それは絶対ダメだと思う。趣味や遊びでやってるんではなく、プロとしてそれで食ってるんだから、事前の料金交渉はしっかりやるべきです。それを「うるせえな」とか「めんどくせえな」と思うような人との仕事は、どっちみち長続きしませんよ。
Q:インタビューで、どうしても聞かなきゃいけないけど聞きにくい質問はどうしていますか?
熊山:最初には聞かない。最後のほうで、「すみません、この質問どうしても聞けって言われているんです」みたいな感じで、媒体や編集者のせいにして聞いちゃいます。
本当に危ない質問は、最後の最後に、最悪そこで終わっても仕方がないぐらいの覚悟で聞きますね。
Q:「うまいインタビュー」とは、なんでしょうか?
田島:編集者としては、結局、アウトプットの原稿がすべてだと思います。現場で「ここは深堀りしないのかな?」とか「ここでその質問?」とか思うことがあったとしても、できあがってくる原稿が良ければ、それがうまいインタビューです。
荒濱:インタビューって、自分ではうまくいったと思ったときでも、あとで聞きなおしたら、実は全然いいこと聞けてなかったり、その逆もあったりしますからね。
本当に、結局は原稿がすべてだと思います。インタビューイの原稿チェックがあるときは、相手の言葉はきっとこうだよねと自分で翻訳したり、意訳をしてみたり、言葉を捕捉したりします。もちろん、話す順番も大幅に変えたりしますね。
その原稿をチェックしてくれた相手から、「そうそう、これが言いたかったんだよね」と言ってもらえたら、それがいいインタビューなんだと思います。
(玉寄麻衣+ノオト)