投稿日:2017年2月25日

地元に仕事はあるのか? ライター交流会「地方在住ライター会議 ~脱・東京の働き方~」イベントレポート

2017年2月10日、東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」で月例のライター交流会が行われた。トークセッションのテーマは、「地方在住ライター」。各地で活動するフリーランスのライター3人と2拠点生活の経験をもつ編集者が、地方に住むことや働き方などについてトークを展開した。

【登壇者プロフィール】

■赤坂 太一(あかさか・たいち)
赤坂さん
1977年4月、札幌市生まれ。2児の父。1999年に上京し、約10年のバンドマン生活ののち、東京都内の編集プロダクションに潜り込み、編集者として勤務。2012年に福岡市に移住し5年が経過したところ。移住当初は転職活動をしていたが上手くいかず、フリーライターの道に進んだ。最近では、カメラを持って一人で取材する機会が増え、九州全土~山陽エリアをカバーしている。
Twitter :@taichi_akasaka

■万谷 絵美(まんたに・えみ)
万谷さん3
(株)Crop代表。1978年生まれ、和歌山市在住ライター。1児の母。関西学院大学総合政策学部卒業後、結婚で千葉県へ。WEBページやブログを独学で作り情報発信をしていく中で、少しずつライターとして仕事がもらえるようになる。2006年に地元で子育てをしたいと思い、Uターン。2013年から「和歌山経済新聞」記者として活動を開始。現在は記者やブロガーの活動と並行して、2015年に設立したPR会社の代表を務める。
Twitter:@orangesky1978

■松田 然(まつだ・もゆる)
松田さん
1980年4月生まれ。ライター 兼 ライティングカンパニー合同会社スゴモン代表。 旅をしながら仕事をするライフスタイルを取り入れ、月の半分を自宅がある東京ではなく国内外を転々としている。特に自転車旅が好きで、仕事をしながら47都道府県すべてを走破。個人事業主やフリーランスなどのライフスタイルを良くするメディア「SoloPro」編集長も務め、自分らしい働き方をデザインする活動に取り組んでいる。
Twitter:@moyulog

■宮脇 淳(みやわき・あつし)
宮脇淳
1973年3月、和歌山市生まれ。雑誌編集者を経て、25歳でライター&編集者として独立。5年半のフリーランス活動を経て、コンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立した。編集者・経営者として企業のオウンドメディアづくりを手掛けつつ、「品川経済新聞」「和歌山経済新聞」編集長を兼務。フリーランス支援として東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」を、夜の社交場としてコワーキングスナック「CONTENTZ分室」を運営中。
Twitter:@miyawaki

●どこに住んでいる?


宮脇:司会を担当する有限会社ノオトの宮脇淳です。私自身も昨年春まで、東京と和歌山の二拠点生活を4年ほど送っていました。そのときの経験も交えて皆さんとお話ができればと思います。では、登壇者の皆さん、自己紹介をお願いします。

赤坂:福岡県在住の赤坂太一です。ライター、編集者、最近はカメラマンもしています。僕は北海道出身で、東京で働いていて、家族との生活を考えた末に福岡へIターン移住しました。引っ越して5年くらい経って、やっと慣れてきた感じです。よろしくお願いします。

万谷:和歌山県在住の万谷絵美です。肩書はブロガー、ライター、PR会社社長、ラジオのパーソナリティなどです。宮脇さんが初代編集長を務めた和歌山経済新聞で、記者としても活動しています。

松田:松田然と申します。私は東京生まれ東京育ちなので、なぜここにいるのかと思われるのかもしれないのですが(苦笑)、旅が大好きで月の半分くらいは東京以外の場所にいます。ライター向けカンパニーの代表を務めていまして、フリーランス向けメディアの編集長をしています。だいたい30~40人くらいのライターさんと日々やりとりをしながら仕事をしていて、そのうちの8割ほどは日本の地方や海外など、私が旅先で出会った東京以外の場所に住んでいる方です。そういったこともあって、今日は「東京サイドから見た地方在住のライターさんたち」について話せたらと思っています。よろしくお願いします。

宮脇:今日はチケットが完売し、日本全国から55人の方が参加してくださっています。チケットの料金を首都圏(東京、埼玉、千葉、神奈川の一都三県)とそれ以外の地域で分けまして、首都圏チケットの申し込みが33人で、地方チケットが22人。地方の方は交通費や宿泊費もあるので、せめてチケット代だけは無料にしました。こんなにたくさんの方が来てくださってうれしいです。

松田:遠方から来てくださった皆さん、地域はどこなんですかね?

(会場に質問、挙手)

宮脇:北海道・東北の方は1人。中部・北陸、近畿の方は多いですね。中国・四国はゼロ。九州・沖縄の方は……お、なかなかいますね。

松田:ライター、ブロガーさんの割合はどうなんですか?

(会場挙手)

宮脇:会場の参加者のほとんどがライターさん、ブロガーさんのようですね。

●ライター活動のきっかけ

赤坂:もともとは東京の編集プロダクションで働いていました。自動車雑誌を得意とするところで、小さな会社です。そこで4年くらい働いたあとに独立してフリーランスになりました。

宮脇:今はカメラマンもやっていますよね?

赤坂:地方だからなのか、今の時代ならではなのか、カメラマンさんに依頼できないからライターが撮影まで担当する案件が多いですね。それで、自分なりに工夫して機材にも凝るようになって。そうしているうちに、写真撮影だけの案件もいただけるようになりました。ライティングがメインの仕事であるのは揺るがないんですけど、その周辺のことがそこそこなんでもできるようになっておくのは、地方では強みになるかもしれません。僕の場合はもともと編集者でしたから。

宮脇:万谷さんはなぜライターに?

万谷:私は書くことが大好きで、大学卒業後に、新卒で何かそういうところに就職できないかと思ったんですけど、できなくて。全然関係ない会社に入社して、すぐに結婚することになりました。そしたら、夫が千葉に転勤になって、私が会社を辞めざるを得なくなってしまって。知らない土地に済み始めても、やることないし、子どもがいて自由に外に出られないし。それで、ブログを始めたんです。12年前くらいですかね。

そしたら、文章の依頼が来るようになって、いつの間にかライターになっていました。それで10年くらいやっていましたね。その間、親の介護や子育てで、必要に迫られて出身地の和歌山に戻りました。夫も仕事を辞めて、新しい仕事を見つけてくれたという。

宮脇:ブログきっかけでライターになるという道はありますよね。松田さんは、いまやご自身で会社まで立ち上げられていますが、どういうきかっけでライティングの世界に入ったのでしょうか?

松田:10年くらい前に転職活動をした時、はじめは営業職で面接を受けたんです。でも、喋るのが下手だから、営業として使えないと思われたらしくて(笑)。それで、未経験でもはじめられる制作部署に配属されたのがきっかけです。

そこで求人広告のライターをしていました。そこでもう馬車馬のように働いて。起業には興味なかったのですが、20代の頃本当に働き詰めだったので「もっと人間らしい生活と仕事を両立できないのかな?」と思い、30歳で独立しました。昔から大好きだった旅をしながら働く実験をやってみよう、と。

その後は、自転車で47都道府県まわりながら仕事をしたりしました。ライターさんってものすごく忙しい印象があったので、「好きなことをしながら仕事をする」という一種のロールモデルになれないかなと思って。

●私が◯◯に住む理由


宮脇:皆さんがいま、それぞれ住んでいる地域にいる理由、そこを拠点としている理由は何でしょう?

万谷:私は必然性があって地元に帰ったんですね。介護とか育児とか。帰った当時は地元にいなきゃいけない理由があった。それが変わってきたのは、地元にコワーキングスペースができてからかな。和歌山に「コンセント」っていうコワーキングスペースができて。そこでいろんな人と知り合ったり活動に参加したりして、そのスペースを中心にしたコミュニティに参加し始めたら、一気に楽しくなってきて。

そのスペースの仲間とZINEを作ったり、イベントを主催したり。そしたら、和歌山の土地の魅力を自分が再発見できて、和歌山っていいなと。それで、いまは能動的に和歌山に住んでいますね。これからもずっと和歌山に住みたいです。

宮脇:実は私もまだコンセントの会員でして、あそこって部室みたいなコワーキングスペースですけど、人間関係が温かい、いいスペースですよね。しかも、管理人は地元の人じゃなくて、東京と埼玉からIターンした人が運営しているのがまた面白い。

万谷:そうなんですよね。東京から来た人が、地元で人と人のハブになるコミュニティスペースを運営している。地元でハブを見つけるって大事だなと思います。

宮脇:赤坂さんは、地元に戻ったわけじゃないんですよね。ご自身は北海道出身で、パートナーも福岡出身のわけじゃないのに、家族で縁のない福岡に移住した。理由はなんだったんですか?

赤坂:そうですね、妻が岡山出身で、地方出身者同士が東京で結婚して、子どもができて、さてどこに住もうかな、と。僕の実家がある札幌という話も出たんですが、メディア関係の仕事が見つかるか不安で……。編プロで働いているとき、全国に出張取材に行っていたんですけど、九州の印象が強烈に残っていたんです。で、妻に「九州に行ってみたいんだよね」と話して。そしたら、「いいんじゃない?」と。「面白そうな土地に住んでみたい」という気持ちがあって、それを実行してしまった感じです。

宮脇:ノリで移住したってこと?(笑)

赤坂:そんなに土地に執着がないんですよね。別にどこでもいいかなと。

●地方在住ライターの働き方


赤坂:僕は、小さい子どもがいながら自宅で仕事しているので、21時に寝かしつけをして、それから3時か4時くらいまで書いています。もしくは、取材先でそのまま書いて納品しちゃうときもありますよ。

宮脇:えっ、どういうこと!?

赤坂:福岡を拠点に、九州内の取材にはよく出向いているんです。例えば、熊本で取材して、それから自宅に戻るとなると1~2時間くらいはかかってしまいます。そこでいったん家モードになって、また夜に集中して……ってやっていると、時間かかるんですよね。なので、もう熊本でそのまま原稿を書いて納品しちゃう。自分で撮影もしているので、可能です。紙案件だとレイアウトが必要だったりするから難しいかもしれませんが、Web案件だったらできます。高速のインターに乗る前のスタバで全部書いちゃって、メールで送って、そのままその日の夜に記事が公開されるみたいなスピード感。

宮脇:締め切り守るどころか、そのスピード感で書けるライターさんはメチャクチャ重宝されますね。

赤坂:無理してやっているわけじゃなくて、すぐに書いちゃった方が自分もラクなんですよね。

宮脇:インタビューしたICレコーダーを2週間くらい放置しちゃって、あとで苦しむのは自分……ていうパターン、よくありますもんねぇ。あ、会場からも無言で同意するうなずきが起こっています(笑)。万谷さんはどうですか?

万谷:働き方は、地元に帰ってからの方が自分らしくなったかもしれません。ブロガーなので、「今日お昼ご飯、どこで食べよう?」っていうのもネタになるし、地元のコミュニティFMのパーソナリティもやらせてもらったりしているので。地方在住ライターは、能動的に地元に関わるようになったら、働き方が面白くなるかもしれないですね。

宮脇:松田さんは、「旅をしながら仕事をする」というスタイルですが、地方に行ったらやはりゲストハウスに泊まったりするんですか?

松田:ゲストハウス、いいんですけど、楽しすぎて仕事にならないんですよね……(笑)。あと、外から来た宿泊者と交流したりするので、あんまり地元を知ることにはならないケースもあって。オーナーさんは地元の人だったりはするんですけどね。宿泊先のオーナーと仲良くなるなら、エアビー(airbnb)で、地元の人が住んでいる家に泊まるのもおすすめです。

でもやっぱり、部屋で仕事をしたいので、普通にホテルに泊まることが多いかな。その場合は、ホテルでごはんを食べるのではなく、外食します。全国チェーンではないところで。そういうところで食事をしたりお酒を飲んだりしていると、いろいろな人と会い、地域ごとの盛り上がりや熱量の違いを感じることができますから。

●東京と地方、仕事案件の割合


宮脇:私も万谷さんと同じ和歌山出身ですが、地元の仕事ってあんまりないよなぁ、と感じています。取引先ってあったりしますか?

万谷:「もともとある仕事」はないですよね。自分で作る。そして、大きな取引先は地方自治体ですよね。地元では県庁が大企業!(笑)

宮脇:たしかに。皆さん、仕事の割合はどうですか?

松田:東京が9、地方が1ですね。独立して6~7年、1回も営業をしたことがありません。僕の場合、旅をすることで仕事が増えているというか。例えば、地方なら「飲みから仕事につながる」みたいなのが多い気がします。提案書を出すような営業はしていないんですが、ライターとしての強みを語っているので、それが地方での仕事になったりします。

万谷:私は99%、和歌山の案件ですね。東京の案件は、昔からやっているのが少しだけ。和歌山の案件は、ライティングだけが発注されることはありません。その文章をどこにどういうデザインで載せるのか、写真はどうするのか、全部をディレクションして、その一部が文章という感じですね。地元でPR会社を立ち上げたので、「予算ってどうやったら出るんですか?」と地元企業の方に聞いています。「チラシですか!? チラシ制作だったら予算出ますか!?」って(笑)。

宮脇:赤坂さんはいかがですか?

赤坂:僕は東京の案件が95%ですね。クルマ関係の編プロ出身なのもあって、福岡の自動車屋さんとかクルマイベントの取材にカメライターとして行ったりしています。最近増えたのは、旅系の案件。それも、東京で働いていたときのコネクションから来たものです。

福岡の案件は、なくはないんですけど。地元の案件って、すでにあるものはメンバーが決まっているので、新しいライターやカメラマンを探すことってほとんどないんですよ。だから、地元で仕事をしたいんだったら、万谷さんみたいに新しい案件を自分で作り出さないと難しいでしょうね。

宮脇:東京の会社、発注主からすると、地方取材が必要なとき、交通費や宿泊費を払って東京からライターやカメラマンを送り込むよりも、地元の人に取材してもらっていたほうがコストは抑えられますよね。地元の人だから顔も利くし、アテンドする必要性も少ない。

赤坂:地方でフレキシブルに動けるライター兼カメラマンって、使い勝手がいいんですよね。自分はもともと編集者だから、制作物の全体像も把握しやすいというのも、案件をお願いしてもらってるポイントかもしれません。

宮脇:ひとり編プロ福岡版、みたいな感じですね。

●地方ライターのメリット&デメリット

宮脇:地方に住んでいてよかったな、逆に不便だな、みたいなことって何かありますか?

赤坂:デメリットは、こういうイベントとか、生の情報に触れにくい点ですかね。なので、定期的に上京するようにしています。上京は年に4回くらいかな。

万谷:メリットといえば、ライバルが少ないことですかね。メディア関係の職業の人自体が少ないから、目立ちます。覚えてもらえます。和歌山でライターさんといえば、私が声かけられる方は2人とかですもん。「ライターさんなんや! 初めて会った!」みたいな(笑)。

松田:たしかに、地方では「ライターって何?」みたいな感じですよね。

万谷:だから、和歌山で何か文章とか媒体とか本とか、そういうのに関係することがあったら、「ちょっと万谷さんに相談してみよう」みたいに、思い出してもらえているんだと思います。競争相手の少なさは、地方在住ライターの強みでしょうね。

松田:地方って課題がたくさんあるので、それを文章とかクリエイティブの力で解決できるかも? って提案する余地はありますよね。

●地方でライター…生活できる?

宮脇:お金の話も少し触れてみたいのですが、東京と地方、生活コストはどれくらい差があると思いますか?

赤坂:東京に住んでいた頃とあんまり変わらないように感じます。まぁ、福岡の方が食べ物の値段が安いなとは思いますけど。僕が福岡で無駄遣いしてるのかな(笑)。

ただ、僕の場合はちょっとイレギュラーというか、福岡へ移住する1年前、都営住宅が当たったんですよ。そこが、2LDKで4万5,000円だったかな。で、今も福岡で賃貸に住んでいて、3LDKで7万切るくらいなんで。東京のときの家賃、安かったなと(笑)。

宮脇:それはイレギュラーすぎる(笑)。やっぱり今の福岡の家の家賃だって、東京に比べればものすごく安いでしょう。平米どれくらいですか?

赤坂:3LDK85平米で6万7,000円ですね。

(会場ため息)

宮脇:このため息は、おそらく東京在住の皆さんからですね(笑)。万谷さんはどうですか?

万谷:私は両親の持家に住んでいます。同居ではないですけど。今回、このイベントに登壇するにあたって、和歌山の独身ライターさんに聞いてきたんですよ。「ライターだけで食べれるんですか?」と。そしたら、「絶対ムリ」と言っていました。バイトもしているそうです。

どこかに所属していた人がフリーランスになるときに、結局それまで所属していたところからもらう仕事が多くなりますよね。で、そういう人は基本的に主婦ライターというか、ひとりで家計を支えなくても大丈夫な人。

やっぱり、「文章だけをやります」で食べていける人は一握りだと思う。「原稿料」って少ないから。媒体側にまわるというか、全体ディレクションと制作費まるっと予算もらって引き受けて、ライティングは自分でやって、デザインは外注に出す……とかだったらやっていけるのかなと。

宮脇:松田さんは、ライターさんへ発注する側へまわることも多いですよね。

松田:東京のライターさんと比較すると、地方在住のライターさんは「お金を稼ぐだけが人生じゃないだろう」的な人が多いかな? と感じます。東京のライターさんの方がぎらぎらしているというか、「やらないと出し抜かれる!」みたいな印象を受けますね。みんながみんなそうなわけじゃないですけど、傾向として。

宮脇:それは、東京の生活コストが高いのと、まわりに頼る家族や親戚がいない場合が多い、というのがあるのかもしれませんね。家族ができて子どもが生まれても、近くに頼れる実家や親族がいないと、高いお金を出して民間の保育園に入れることになったりすることもありますし。

●地方在住ライターが今後、活躍する場は

宮脇:地方在住ライターさんが、もっと活躍するためにはどうしたらいいんでしょうか? 例えば万谷さんだったら、今はほとんどないという東京案件をもっと増やすとか?

万谷:欲しい欲しい! 和歌山のみんなに言われて、東京に来ているんですよ。「東京の案件、取ってきて!」って。

こちらは、地元のネタを取材して、東京に渡したい。そしてそれは、東京の人にもメリットがあると思う。和歌山のネタは発掘されつくしていないと思うし、コストかけて東京から取材に来るのも大変だし。だから、東京の編プロの人とつながって和歌山の人の仕事にできる、ハブになる存在が必要だと思っています。

宮脇:この地方のことをよく知っている人に書いてもらいたいみたいな案件は、決してなくはないと思うんです。ただ、そこにどんなライターさんがいるのか、ほとんど知られていないんですよ。

松田:声を上げることは重要ですよね。「◯◯県には□□というライターがいますよ!」と。存在感を示していないと。

あとは、自分が地方在住ライターさんと知り合って、実際に一緒に仕事する人には共通点があるんです。何かその人の好きなことがあって、その喜びを人に伝えられる人。好きがあふれている人。そういう人だと、仕事しやすいというか、何か案件が来た時に、存在を思い出すんですよね。「◯◯県だったら、あの人だな」って。そういう、「◯◯県だったら誰々さん」みたいに覚えてもらえるように、何かの方法で印象づけることは大切だと思います。

●地方在住ライターのこれから


宮脇:地方と地方在住のライターは、これからどうなっていくと思いますか?

松田:私は自転車で47都道府県をまわったので、熱量のある地域、ない地域っていう違いは感じました。それは、観光名所の有無とかではなくて、やっぱり人。例えば、フリーのライターさんならコワーキングスペースを利用する方も多いと思いますが、イベントの開催頻度でもわかります。そういう活動を継続的にやって、集客できるほどの人がその地域にいるかどうか。あとは、自治体側に柔軟な考えの人がいて、その人が民間のキーパーソンとつながっているかどうかも、その地域における熱量の傾向としてありますね。

万谷:私は、東京で培ったノウハウを地方に共有したり、地方のネタを地元ライターが書いて東京案件にまわしたり……うまく、情報とお金を循環できたらいいのかなと思います。私が月に一度上京しているのも、そういう意味合いですね。情報と案件を和歌山に持って帰る。そして、和歌山から東京の人に使ってもらえそうなネタを考える。

東京ではここのコワーキングスペースコンテンツを拠点にしていて、和歌山ではさっきも話したコワーキングスペース「コンセント」を拠点にしています。東京と地方、どちらにも拠点があると、循環させやすくなるかなと。

あと、地方自治体の仕事ってあると思うんですけど、担当者たちは東京の大手代理店に頼んだりしてるんですね。でも、たぶん、できれば地元でやって、地元にお金を落としたいと思っているはずなんです。東京の大手代理店に発注するのは、地元でできる人を知らないからかもしれない。

松田:やっぱり、ライター側からの情報発信と、地元のキーパーソンとつながるのは大事ですよね。もしくは、自分がキーパーソンになるか。あと、地方でも東京でも、ひとりで頑張ろうとしないで、まわりのライターさんや編集者さん、好きな編プロさんなどと、チームを組んだり、そこまでガッツリ組まなくても、ゆるくつながりながら、時々困ったことを相談したり一緒に仕事していけるといいと思います。特に、フリーランスは仕事ばかりしていて視野が狭くなり、孤独になりやすいのかもしれないな、と。コワーキングスペースに通うようにするでもいいですし、なにかハブ、拠点になる場所を持つのもいいですね。

●Q&Aタイム

Q:地方在住のライターが東京までなかなか取材に行けないというのもありますし、子どもがいるとそもそも家からあまり出られないと思うんですけど。そのへんはどうやりくりしていましたか?

万谷:それはよくわかります。私も、赤子を膝の上に置いて仕事してましたからねぇ。家から出なくても書ける、質の低くないライティング仕事は意外とありますよ。スマホアプリに関する記事とか、商品を送ってもらってそれのレビュー記事を書くとか。

宮脇:対面での取材は、やはり東京に住んでいないと厳しいというのは事実ですよね。ただ、電話取材、いまだったらスカイプで通信しながら話もできますし、そもそもその地域ならではの体験レポートなどは、東京のライターには書けません。強みをどこに持つか、それを対外的に大きな声で主張できるかどうかが、仕事を広げるキーになりそうですね。

Q:地方案件の単価ってどうですか?

万谷:うーん、地方に住んでいるライターさんだから安く請けるっていうのは特にないと思います。

赤坂:どうなのかなぁ。地元の情報誌へ営業に行ったとき、あんまり単価がよくなかったんですよ。新聞の記事広告とかだと予算があったりするんですけど、機会は少ないですが……。それもあって、僕は東京案件を中心に請けるようにしています。

宮脇:単価の差は大なり小なりありますが、やはり案件数は東京が圧倒的に多いでしょうね。単価よりも案件数と掛け合わせて、全体的な仕事のボリュームを増やすことで、売り上げを伸ばしていくという考え方も大事じゃないかなと思っています。

 

1時間を越えるトークセッション後、会場から積極的な質問が飛び出した今回のライター交流会。ノートPCとネット環境があればできる仕事ではあるが、それ以上に自分自身のセールスポイントを磨いたり、周囲のつながりを構築したりすることの大切さを参加者全員が再認識したイベントだったのではないだろうか。今後も、地方と、その地域でどう働いていくか、どのように仕事を生み出していくかは関心を集め続けるに違いない。

次回ライター交流会は、3/18(土)に開催予定。

(田島里奈/ノオト)

登壇&参加してくださった皆さまがレポートを書いてくれました。

コワーキングスペース・スタジオ Contentzは、2024年4月30日をもって閉館しました。仕事場として、イベント会場として、長らくご愛用いただき、誠にありがとうございました。

有限会社の音

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