投稿日:2017年7月12日

ベテラン編集者&ライターが実践する “はやく書くコツ”って? 五反田 #ライター交流会 公式イベントレポート

2017年6月17日、東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」で月例のライター交流会が行われた。トークセッションのテーマは、「はやく書くコツ」。登壇者2名と有限会社ノオトの代表がトークを展開した。

【登壇者プロフィール】

■石黒謙吾(いしぐろ・けんご)

1961年金沢市生まれ。著述家・編集者・分類王。著書に、映画もされた『盲導犬クイールの一生』(文藝春秋)、『分類脳で地アタマが良くなる』ほか多数。プロデュース・編集した書籍は、6/7発売の『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一、菊池良/宝島社)など、幅広いジャンルで250冊。
Twitter:@ishiguro_kengo

■佐藤友美(さとう・ゆみ)

1976年北海道知床半島生まれ。著書にベストセラーとなった『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)、49歳で亡くなったある女性について191人に取材をして描いたノンフィクション『道を継ぐ』(アタシ社)など。
Twitter:@SATOYUMI_0225

■宮脇淳(みやわき・あつし)

1973年3月生まれ、和歌山市出身。「品川経済新聞」編集長、コワーキングスペース「CONTENTZ」管理人、コワーキングスナック「CONTENTZ分室」オーナー。
Twitter:@miyawaki

●本一冊を3日で書く


宮脇:司会を担当する有限会社ノオトの宮脇淳と申します。今までの交流会はweb系のライターさんや編集者とのトークセッションが多かったんですが、今回はおふたりとも書籍メインということで、とても新鮮ですね。まずは自己紹介をお願いします。

石黒:石黒謙吾です。32歳までは講談社で記者・契約編集者をしていました。今は、著書を書きつつ、書籍のプロデュースと編集をしています。自分が執筆した書籍は50冊強、他の人の本をプロデュースした書籍は200冊以上あります。よろしくお願いします。

佐藤:佐藤友美です。新卒でテレビ制作会社に入社して、その後ライターになりました。16年間フリーランスでやっています。よろしくお願いします。

宮脇:今回のトークテーマは「ライターの生産性アップ~はやく書くコツ~」です。おかげさまで今回のチケットは早々に完売しまして、皆さんはやく書くコツにすごく興味があるんだと感じました。


宮脇:Q&A形式で進めていきます。まずはQ1「どれくらいのペースで執筆してるか」。どれくらいのペースでどんな仕事をされているのか、教えていただいていいですか?

佐藤:書籍の執筆時間は、実用書で写真多めのものであれば、だいたい3日くらい、文字量が多い書籍であれば1週間から10日くらいで仕上げています。昨年は書籍を12冊書いて、月イチの連載のコラムを4本、あとはwebの記事を書きました。ライターの仕事は全体の3分の2くらいで、残りの3分の1は美容業界の講演会や、自分が著者として出した本の販促活動などです。

宮脇:本一冊を3日で!? 相当スピードが速いですよね。 

佐藤:そもそも、書くことがあまり好きじゃないんです(笑)。なので、どうやったら速く書けるのかを考えて工夫しています。

石黒:それ、わかる。実は、僕も書くのはそんなに好きじゃないです(笑)。どっちかというと編集の方が楽しいですね。編集者として毎日何百本もメールしているので、執筆の時間があまり取れないっていうのもあるんですけど。

執筆ペースは、シリアスなものか、サブカルか、エッセイ風かなどで一概には言えませんが、平均的には、書籍1ページが40×15行として600字、これを10ページくらいが一日で無理なく書けるラインかなと。他の連絡などもこなしつつならそれぐらい。マックス集中して超スピードで書いて20ページくらい。僕は1行40字単位で書くクセをつけていて、1時間に15行で完成度をキープして、余裕で進められる目安にしています。

●仕事は1日12時間まで


宮脇:編集者はどうしてもメールのやりとりとか、他者とのコミュニケーションに時間を取られますよね。

石黒:僕は夜22時までしか仕事をしないことと、1日12時間しか働かないことを決めています。「夜中にやらない」と決めれば、それまでにどうしても仕事を終わらせなきゃいけないってなるでしょ。雑誌をやっていたころから「終わりを決める」というクセはつけていますね。

宮脇:佐藤さんは、1日の時間の使い方を決めていますか?

佐藤:私は特に決めていないですね。〆切前は朝まで書いていることも多いです。その日の朝10時が〆切なら、間に合うように執筆時間を計算して、この原稿なら朝4時に起きて書けば間に合うな……みたいなことは考えます。

宮脇:夜書く派と朝書く派、ライターさんにはそれぞれ流派がありますよね。お二人はいかがですか?

石黒:僕は雑誌編集者じゃなくなってから、夜型ではなくなりました。夜型のペースで仕事をしていると、あまり長続きしないんじゃないかって気がします。向き不向きもあるんでしょうけど。

佐藤:私は朝が弱くて、エンジンがかかるのがだいたいお昼の15時くらいなんです。そこから夕方18時くらいまでがピークタイムですね。あとはスキマ時間。入浴時とか新幹線の中でとか、いろいろな場所で書いています。

宮脇:3時間ですか! 集中できる自分のコアタイムを持っておくことで、自分の力を発揮できる瞬間を持っているってことですよね。

石黒:いろんなやり方を試してみると、その中で自分にフィットするものが出てきますよね。例えば、僕は打合せでも取材でもノートを使わないんですよ。A4のコピー紙に書きなぐっていて。でも、そのやり方ひとつ取っても、合わない人には合わない。だから、いろいろな方法やルールを試してみて、自分にフィットするものを探すのも大事なことだと思います。

●メールフォルダの数は200ほど

宮脇:次の質問に行ってみましょう。今回の核心をずばり聞いちゃうんですけども、「はやく書くコツは?」

ライターの仕事の手順は、まず「こういう企画をやりたい」という構想があって、取材したり資料集めたりする段階があって、次に取材の文字起こしや執筆、原稿について編集者とやり取りをする、ざっくりとこういう感じですよね。


宮脇:生産性を上げていくためにどういう部分を意識されているかをお聞きしたいです。石黒さん、お願いします。

石黒:これは、依頼されてから原稿を書くというベーシックな状況ですよね。まず前提を言うと、いざ書くときに、初めてそのことについて書こうと思ったら、やっぱりスピーディには仕上げられないんですよ。日頃から「このテーマについて書けるな」とか、「こういう言い回しがあるな」とか、準備をしておくことが重要だと思います。

宮脇:この「前準備」は仕事の依頼が来てからということですけど、石黒さんがおっしゃったのは書き始める「前々準備」ですよね?

石黒:そうですね。依頼が来たら、準備しておいた自分のストックとすぐに結び付けられるので、そういう“見立て力”をつけておくことは重要だと思います。

宮脇:佐藤さんはこの3段階のうち、どこに重きを置いていますか?

佐藤:私は一度書き始めたら「寝る」以外では止まらないんですよ。つまり、書くスピードについてはタイピングのスピードが限界値です。書くときにはもう書くことの方向性が頭のなかで決まっていて、それをひたすらタイピングしているという状況ですね。

そういう意味では、やはり書く前準備を念入りに行なっています。具体的には、取材をしたときのトピックを付箋に書き出して、事前に分類しておくんですね。その構成さえきっちりできれば、あとはそれに従って書くだけです。

宮脇:佐藤さんに事前にいただいた資料がありまして、こちらです。まずエクセルで分類して、それを宛名ラベルに印刷してノートに貼っていくんですよね。確かに、ここまで準備しておくと執筆が楽になりそうです。

佐藤:執筆に使わずに余ったラベルの内容は、原稿と一緒に編集さんに提出しています。私は原稿に入れなかったけど、もしかしたらこの中から拾い上げておくべき項目があるかもしれないので。


宮脇:分類といえば、石黒さんは「分類脳で地アタマが良くなる 頭の中にタンスの引き出しを作りましょう」(KADOKAWA)を出版されています。普段どのように仕事を分類されているのですか?

石黒:僕はGmailを使っていて、メールの内容や案件ごとにさまざまなフォルダを作っています。「○○連載」「挨拶」「野球」とか、そういうフォルダが200くらいあるかな。「メールをわざわざ振り分けるなんて無駄じゃないですか」と、たまに言われるのですが、フォルダに振り分けることで、自分の頭の中でも分類されるんですよ。インプットっていうのは決して簡単じゃなくて、面倒でも汗をかいてやらないと忘れてしまうんです。

宮脇:メールを1通1通、そんなに細分化するんですね。 

石黒:そうですね。細かく分類しておくと、いつ何があったかすぐに分かるんですよ。あと、連絡系統を一元化するのも大事ですね。たまにSNSで仕事の依頼があるんですが、僕はSNSでは仕事をしないと決めているので、「改めてメールで送ってもらえますか?」と返信します。

佐藤:私も、SNSに仕事の連絡が来たら「メールの方に送ってください」とお願いしています。あと、基本的に連絡は電話ではなく、メールにしていただいています。ただ、原稿の細かいニュアンスなどは、電話で話してしまった方が早いのですが。

宮脇:ライティングに集中しているときに電話があると、そこで意識が途切れてしまいますよね。自分の生産性を上げるためにルールを決めている、と。


佐藤:ルール化といえば、私がファッション誌のライターをやっていたときに、媒体ごとに形容詞を書き出したんです。可愛い系、かっこいい系など、誌面でよく使われているワードをジャンルで分類しました。

ファッション誌って形容詞の媒体なんです。「超かわいい」を表現するためにどれだけのバリエーションで書き分けられるかがライターの腕の見せどころ、みたいな。分類表を作るのは大変なんですけど、一度完成させれば10年間はそれを使えますから(笑)。そうした事前準備をしておくと書くスピードも上がりますし、何といっても自分の仕事が楽になります。あとは、「いつか使いたいかっこいい言葉メモ」も作っています。言葉の引き出しのようなものですね。

石黒:ライターさんはみんな、「語彙を覚えなくちゃいけない」と思うじゃないですか。でも、極論すればそれをマストとして苦しむ必要はないです。もちろん、小説を書きたいとかいうことなら別の話ですが。仕事を進める方法論の一つとして、佐藤さんのように、あらかじめ書き出して分類しておけばいい。辞書を引くのもいいけれど、すぐ見える場所に貼り出しておけば、そういったリードタイムを省略できます。もちろん覚えればレベルは上がるに決まっていますが、必ずしも頭のなかに入れなければとまで思わなくてもいいのかなと。

●30分で1,200字、1時間で2,500字弱


宮脇:そういえば、佐藤さんは「30分単位で何字書いたか記録しながら原稿を書いている」とおっしゃってましたね。

(会場どよめく)

佐藤:執筆時に30分ごとにタイマーをかけて、いま何字になっているかを確認しています。ジャンルによるんですが、私の場合は30分で1,200字、1時間で2,500字弱くらいが平均スピードです。

宮脇:こちらが証拠写真です。いやぁ、これはすごい。普通のライターさんは、なかなかここまでやらないですよね。

佐藤:カウントしておくと、自分の執筆速度がわかるので、だいたい何時間で書けるなという指標になります。そうすると、締切日までに何日空けとけば大丈夫かという見立てがつくので。

あと、生産性を上げる方法は、執筆スピードを上げるだけではないと思うんですよね。たとえば納品した原稿に対して「もう一度書き直して」「イメージと違う」と言われてしまって書き直しになると、生産性が下がります。それを回避するために、雑誌で書くとなったらその媒体の雑誌を1年分くらい読みます。そして、その媒体の表記ルールをざっと書き出す。それによって、媒体のルールが見えてきて、修正も少なくなります。

書籍の場合は、著者さんの過去の本だけではなく、編集さんが以前担当した本もできるだけ目を通すようにしています。編集さんと一緒に書店に行くこともあります。私、これを「棚デート」って呼んでいるんですけど(笑)。どの棚に置かれる本を目指すのか、実際にいろんな書籍を手に取りながら方向性をすり合わせておくんです。そうやって、編集さんと事前にしっかり話しておくと、納品後のミスマッチが減ると思います。

石黒:編集者の立場から言うと、執筆者にフォーマットの統一を伝えても守ってくれない人がほとんど(苦笑)。もちろん編集者がやるのが当たり前なので全然いいのですが、ただ、そういう人に対しては、「この人はやらない人なんだな」とは思います。表記統一はめんどくさいだろうけど、僕は最初にしっかり説明します。そうしないと、ちゃんとした仕事ができるプロのライターとして信頼されるようにならないですから。

宮脇:細かい部分をちゃんと守ってくれると、次もお願いしやすくなりますよね。「はやく書くコツ」としては、「執筆」の負荷を下げるために「前準備」に力を注いでおくというのが、お二人に共通する結論となりそうです。

石黒:「はやく」には2つの漢字がありますよね。「速く」と「早く」。前者の執筆スピードを野球に例えて言うと、遠投力だと思うんですよ。遠投力は高校生くらいがピークで、それ以上はそんなにもう上がりません。ライターとして仕事をしている方ならわかるかと思いますが、純粋な執筆スピードを今以上に上げるのは難しいと思うんです。もちろん、小説家の中には一気に20万字くらい書いてしまう超人がいますが、普通の人には真似できないですよね。

宮脇:なるほど、イチローなら120メートル級の遠投ができるけど、草野球である程度の年齢のプレイヤーならその半分くらい、でしょうか。つまり、ライティングのスピードは個人差があり、そもそも全盛期以上に速く書くのは難しい、と。

石黒:そうです。だからそこまでの遠投力のない人ならば、前準備をしっかりすることで、「速さ」より「早さ」を目指したほうがいいと思います。

●自分の仕事をどうやって管理しているか


宮脇:Q.3は「自分の仕事をどうやって管理しているか?」。効率よく仕事しようとすると、時間の使い方などもしっかり管理しないとですよね。何かコツはありますか?

石黒:今はとにかく連絡が多いんで、アポがあって外に出る日は1日にまとめますね。あとは案件の数を減らす、つまり簡単にできることから済ませる。それから、優先順位をしっかりつける。

佐藤:私も石黒さんと同じで、できるだけ打ち合わせや取材などの外出しなくてはいけない予定を同じ日に固めることを意識しています。そして、空いている日はまるっと1日執筆に集中できるようにしています。打ち合わせのスケジュールもこちらから出すのではなく、先方に候補日をもらって、自分のスケジュールを見て決めさせてもらいます。

あと、仕事の管理方法といえば、私はライター1年目から「締め切りが早いもの、原稿料が安いもの、誰もやりたくない仕事」を優先すると決めていました。そうしておくと体力がつくかなと思って。

宮脇:それはかなりストイックですね。意図的に自分を成長させるためにされていた?

佐藤:私はもともと人より書くのが早いという意識があったので、そこを強みにした「早い・安い・めんどくさい」記事を受けるライターとして認知されよう、と(笑)。当日納品の仕事などもよく受けていましたが、逆に納期が短いってことは、提出してしまったらその日で仕事は終わるので、その後のスケジュールに引っ張られることが少ないという利点もあります。

最近、ちきりんさんの本『自分の時間を取り戻そう―――ゆとりも成功も手に入れられるたった1つの考え方』(ダイヤモンド社)を読んだんですよ。ここに生産性を上げるコツが書いてあって、私のやっていたことは間違ってなかったんだなって思いました。ちきりんさんはパンクするほどの仕事を一回受けて、それをなんとか処理することで力がつくと書かれていて、すごく納得しました。

宮脇:そうですね。若い頃に限界点を突破するような経験をしておけば、これ以上無理だということがわかってきます。生産性アップのコツをまとめると、基本的には自分の中で自分の仕事にあった型を作るとか、事前にしっかり準備しておくことが大事なんですね。

●「ライター」は稼げる仕事なのか

宮脇:では最後の質問です。「ライターって結局、稼げるのか」。今の社会の流れですと、連載の原稿料だと食いつないでいくのはしんどそうですよね。

石黒:僕は不労所得のシステムは極力活かすべきだと思います。書籍は一度作って重版がかかれば印税収入が入ります。ウェブだとアフィリエイトみたいな貼っておくだけの広告収入が見込めるものとか、他にもいろいろありますよね。

あとは、これからの時代、ライターとして稼いでいくにあたっては、目の前のことばっかりやってると絶対にいつかしんどくなるはずなんですよ。だからきちんと所得を積み上げていくためには、自分のオリジナリティを出すことが必要だと思います。次々に新しい人が出てくる中で、取ってかわられないようにするためには、“代わりがいない存在”になるのがベストです。

宮脇:前段階の前段階でしっかり準備しておこう。戦略を練っておこう。そして、ちゃんとオリジナリティを鍛え、それを身につけていけば何とかなるというのは言えそうですよね。佐藤さんはどうでしょう?

佐藤:私はライターってすごくいい仕事だなって思います。私が今日ここでお話した感じだと、ものすごくたくさん働いているように見えてしまうかもしれませんが、実際はよく休んでいるし、子どもがいるので、一緒に過ごす時間も大切にしています。家庭があっても自分のペースで働ける、売り上げもちゃんと出せる仕事って、他にはあまりないと思います。稼ぎという点でいうと、会社員時代の3~4倍くらいのイメージです。

私の場合、基本的にギャラの交渉はしないです。いい編集者さんはちゃんとスタッフのことを考えてくださっているので、ライターに無理な金額を提示しないと思うんですよね。信頼できる編集さんと組むことができれば、交渉しなくてもちゃんと考えていただけると思っています。

宮脇:ありがとうございました。いろんな人達がやってるノウハウを上手く自分なりに当てはめて応用して積み重ねていけば、かなりいい線いくかっていうのはありますし。それではいったんトークは締めたいと思います。

●Q&Aタイム

Q.「いい編集者」の定義を教えてください。

佐藤:書籍に関していうと、著者さんが輝くために、手間を惜しまずコミュニケーションしてくださる方がいい編集さんだと思います。ライターとしては、しっかり原稿を見てくれる方と巡り会えると幸せですよね。

石黒:編集部によってまったく違うので「編集者」といっても一概には言えないですが、とにかく誠実で、きちんと連絡をくれることに尽きるんじゃないかと思います。

Q.まったく門外漢の仕事が来たときは、どうしていますか?

石黒:書き手としてはよく単発の依頼がありますが、僕は無理だと思ったことはきっぱりお断りします。やはり最初に断ったほうが誠実だろうと思うので。でも、書籍自体は著書も編書も依頼ではいっさいやらないのですよ。自分で企画し、プロデュースするので、そもそも依頼されたくないし、そうやっていたらちゃんと認知されて3年もしないうちにしっかりと依頼はこなくなりましたよ。

佐藤:私の場合は、雑誌では十数年にわたって「髪」についての記事しか書いてないんですね。雑誌の記事ってリサーチがすごく大量になるので、ジャンルを絞らないと仕事が追いつかなくなると判断したからです。専門外の仕事も受けるのか、あえてジャンルを絞るのか。そこはそれぞれのライターさんが判断していくべきだと思います。

Q.私は〆切に追われないと原稿を書けません。お二人はどのようにスイッチを入れているか、いわゆる「ゾーン」みたいなものに入れるのか、教えてください。

石黒:編集者の立場から言うと、ライターさんには入稿日を伝えて「原稿の〆切日時はそっちで決めてね」と伝えています。そうすると、もし原稿が遅れたら、こっちは「あなた、自分で〆切を決めたよね」と言えるんです(笑)。結局のところ、〆切は自分のために決めるものであって、編集者に切られてるうちは好きなことなんてできないだろうって、僕は思いますけどね。〆切に追われると、人生損したような気持ちになりませんか?

佐藤:ごめんなさい。私も〆切に追われないと原稿が書けないタイプです(笑)。私がなぜ自分の書くスピードを記録しているかというと、〆切を守れないのが怖いからなんです。自分の執筆スピードを把握していると、〆切の日時から逆算して書き始める時間を決められます。

あと、私の場合は、ウェブなどの短い記事を書くときは、書き出しの1行が「スイッチ」になります。書き出しさえ決まれば、あとはそんなに難航しません。書き出しを考えながら1時間くらいウォーキングをして、思いついたらそのままタクシーで帰ってきてすぐPCに向かうとか(笑)。

Q.集中力をあげるために、何か特別に意識していることはありますか?

石黒:僕は仕事をルーティンにしていることかな。生活リズムを一定にする。あと、健康についてすごく気を使っています。

佐藤:私はなかなかやる気が出ないんですよね、結局ダラダラしちゃうんで、なるべく〆切間近まで書きません。「あと1時間サボったら〆切に間に合わない」という状況から書き始めます。そうすると、嫌でも集中力は高まりますから。

石黒:「セルフ背水の陣」ですね(笑)。これは僕が自分を追い込む時によく使うお気に入りの言葉です。

Q.ライターとして編集者に企画を出すとき、どういう準備をしているのか教えてください。

石黒:「企画を考えよう」と思って考え始めるのは、すでにそこで負けてる状態だと思うんですよ。僕は「企画を考えよう」と思って考えたことは一度もありません。企画になる発想はふっと降りてくるから、そのためのパーツを常日頃からストックしておく。その引き出しから出して部品を組み立てて企画として固めるイメージですね。

佐藤:書籍の企画に関していうと、“著者さんありき”なんです。ですから、著者さんの考えと世の中のニーズがどれだけマッチしているかを考えることが多いですね。これはベストセラーを連発している編集さんに教えてもらったやり方なのですが、著者候補の方にヒアリングするときは、「人生重大ニュース10」を聞いたり、「名言リスト100」を作ってもらったりして、その中から切り口を考えることもあります。

Q.仕事場の環境について教えてください。

石黒:自宅のデスクにPCや文具、椅子の真後ろに大きいコピー機、右側に案件別140段のファイリングの棚(写真参照)、左側にゲラや資料を広げる作業台と、仕事に必要な道具を全部揃えています。椅子を回転させるだけで届く位置に配置し、四方を囲んでコックピットみたいにしています。これで、座ったままですべて済みます。立ち上がらないで済むような狭い空間で仕事しています。ちなみに僕は外ではいっさいパソコン仕事をせず、ノートパソコンも持っていません。スマホで仕事メールも見ません。

石黒さんのご自宅

佐藤:私は逆に自宅ではなく、文章は外で書いていることがほとんどですね。OKしてもらえるなら、編集さんに会社の会議室を押さえてもらってそこで書かせていただいたり。あと、原稿のチェックはスマホでもやっています。スマホで原稿を読むと、誤字脱字に気づきやすいんですよ。

ライターの生産性アップについて、縦横無尽に語られた今回のトークセッション。登壇者の話を聴いた参加者からは、時折驚きの声が挙がるほど赤裸々な発言が飛び出すこともあった。「記事をはやく書く」ために大切なのは前準備。自分に合うやり方を探し、それをうまく最適化していけば、きっと仕事の生産性は少しずつ上がっていくだろう。

(神田 匠/ノオト)

登壇者や参加者の皆さんもレポートを書いてくださいました。

当日のツイートをまとめてくださった方もいました。

次回以降のライター交流会の予定です。