メディアを続けるためには? DPZ林×ヨッピー×ノオト宮脇がネットコンテンツ15年を振り返る #ノオト15th レポート(前編)
「今Webメディアでおもしろライターとして稼ぎたい人がいたら、どういう記事で活路を見出していったらいいでしょうか?」
会場からの質問に、「文章で? 動画じゃなくて?」と苦笑しながら聞き返すのは、デイリーポータルZ編集長の林雄司さん。2019年6月29日、有限会社ノオトの15周年を記念し、全15時間の長尺イベント「#ノオト15th 大感謝祭」が東京・五反田のコワーキングスペース・スタジオ「CONTENTZ」で開催されました。
「Webメディアやネットコンテンツの過去・現在・未来を考える」をコンセプトに開かれた3つのトークセッション。まずは第1部「ネットコンテンツの15年を振り返る あの日、あの時、あのウェブメディアで」をレポートします。
登壇者は、林雄司さん、ライターのヨッピーさん、ノオト代表の宮脇淳の3人。新しいコンテンツが生まれてはアーカイブされていくインターネットにおいて、この15年間でメディアや記事の作り方はどのように変わっていったのか。動画の隆盛やオウンドメディアの閉鎖、厳しくなるコンプライアンスなど、さまざまな変化を振り返りました。
【登壇者プロフィール】
林雄司
デイリーポータルZ編集長。2002年から執筆、編集、サイト運営、マネタイズ、マネタイズしたけど赤字だったときの言いわけ資料作成などの作業を行っている。地味な仮装限定ハロウィンの開催、顔が大きくなる箱(BigFaceBox)での海外のイベント参加などオフラインの活動も増えている。17年続けているのに、最近また記事を書くのが楽しくてたまらない。Twitter:@yaginome
ヨッピー
1980年大阪生まれのライター。「オモコロ」「SPOT」「Yahoo!ニュース 個人」など、さまざまなWebメディアで執筆や広告企画などを手掛ける。おふざけ記事を得意とするが、法律を盾にして悪徳企業から銭ころを巻き上げたりするのも得意。Twitter:@yoppymodel
宮脇 淳
編集者/有限会社ノオト 代表取締役。1973年3月生まれ、和歌山市出身。雑誌編集部のアルバイト、編集者を経て、25歳でフリーランスのライター&編集者として独立。2004年7月にコンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立した。ウェブコンテンツの編集を主軸にしつつ、コワーキングスペース「CONTENTZ」(コンテンツ)、コワーキングスナック「CONTENTZ分室」、エッセイ投稿サイト「ShortNote」の事業継承など、多様な編集活動に取り組む。南海時代からのホークスファン。Twitter:@miyawaki
ネットメディアでどうやってお金稼ぐか問題
宮脇 淳(以下、宮脇):過去15年のネットメディアにおいて、「こんな変化があったから今がある」と思えるトピックってありますか?
ヨッピーさん(以下、ヨッピー):身もふたもない話ですが、「お金」ですね! 僕は2011年に会社をやめて完全にフリーライターになり、ちょうどその頃に民間からインターネット記事にお金をくれる人が出始めました。タイミングが良かったです。
宮脇:ヨッピーさんは多くの記事広告を手がけていますよね。そこに目をつけたのはいつ頃ですか?
ヨッピー:2013年ぐらいに、LINEの谷口マサトさんとお仕事したのがきっかけですね。「ライターを探している」と言われて向かったのが、記事広告の制作現場でした。
谷口さんは「頭おかしいんじゃないかな」って、とんでもないお金の使い方をするんです(笑)。ごついスタジオを借りて、軽自動車1台でボーンと乗り込んで、10~20人くらいのスタッフで撮影していて、1記事にすごい予算をかける。記事広告だとこんなに使えるんだ、おいしいな、と目を付けるようになりました。
林雄司さん(以下、林):谷口さんは特殊で、もらったお金の9割を製作費に使うらしいから(笑)。
宮脇:さすがに使いすぎですよ! 飲食店を経営したら一瞬で潰れそう(笑)。
ヨッピー:谷口さんとの出会いは自分のなかでも大きな転換期になって、記事の作り方がかなり変わりました。自分がプロデューサーとなり、芸能事務所を通して芸能人に依頼をかけて、スタジオを押さえて、小道具を用意してカメラマンを選定して。普通のライターではやらない、広告記事を作るノウハウを一通り学んだと思います。
宮脇:記事を書いて原稿料をもらっていたのが、記事広告制作でお金をもらうようになったわけですね。
ヨッピー:あとお金の話だと、最近オウンドメディアが相次いで終了しているじゃないですか。「みんなのごはん」や「nanapi」、「フミナーズ」とか。あれも結局は運営元からお金が出なくなったからで。nanapiもKDDIが買ったけれど、会社全体で儲かっていてもメディア事業単体で採算が取れないと潰されちゃう可能性があるわけですね。
林:自分のとこ、DPZ【※】の話ですけど……メディア単体で儲けるのって、間違っていますよね(笑)。
(会場:爆笑)
【※】デイリーポータルZ(以下、DPZ)は、2002年にニフティ株式会社のメディアとしてスタート。2017年に東急グループのイッツ・コミュニケーションズ株式会社へ事業譲渡された。「現在までの17年間、黒字化したことがない」(林さん談)。
宮脇:林さんは最近、「今のメディアは、『お金を稼ぐこと』が求められている」と、直近のインタビュー記事で答えていましたね。バナー広告を勉強しているとか。
林:あれって宮脇さんの影響なんですよ。
宮脇:え? なんでまた?
林:DPZは今、月200万円くらいの赤字を出しているんですよ。前に宮脇さんと飲んでいるときにその話をしたら、「うちの会社だと、その赤字は出せないなー」って言われて(笑)。俺も独立を考えてはいたんだけど、先に独立した人からそう言われてしまったので、さすがにちゃんと向き合い始めたという。
宮脇:年間で2,400万円、4年間でだいたい1億円の赤字ですからね(笑)。
林:1億円をインターネットに投資している感じ。
ヨッピー:でも、全体でみたら何かしらの収益があるわけじゃないですか。まったくないのと、ちょっとあるのとは全然違っていて。運営元の企業とも、そのわずかな収益をどうやったら伸ばせるのかをやってみよう、と持続する話になるし。
僕が運営しているお出かけメディア「SPOT」も、毎月何百万円と赤字が出ているんですが、広告がいっぱい入るようになったのを示しながら「長いトンネルを抜け、ようやく光が見えてきました」みたいな言葉で逃げています(笑)。
林:いかにメディアに期待感をもってもらえるか。あとは読者の声を拾った報告書も、経営者には響くよね。
ヨッピー:そうそうそう! だから、記事を読んでいるみなさんにTwitterで感想を書いてもらうのって、超ありがたいんですよ。編集部もみんな意外と細かく見ていて、いいコメントを切り抜いて報告書で送っているから。
宮脇:記事に温かいコメントって付けられづらいので、もらえるだけで助かりますよね。読者のみなさんには、この場を借りてお願いしたいです(笑)。
動画、強い
林:ネットの広告費がテレビを上回ったとよく聞きます。けれど、上回った分が僕らに来てはいなくて、きっと綾瀬はるかの動画とか、メジャー感のあるプロモーションに流れていますよね。
宮脇:実際、広告費は動画に流れていますよね。これまでネットコンテンツのメインはテキストでしたが、ここ数年で動画が強くなりました。なぜテキストには、こんなにお金が回ってこないんだと思います?
ヨッピー:前々から、コンテンツを数値化する尺度には、「広さ」と「深さ」と「距離感」があると言っていて。「距離感」でいえば、ネットメディアはテレビに比べて親和性が高く、作り手が身近に感じられる。そこに特化したのがYouTuberで、再生を繰り返している人も親近感を持っているからかな、と。
一方で、「東京のうまいラーメン屋」を探すなら動画は長ったらしく、テキストの方がいいじゃないですか。テキストは情報を受け取るのに適しているけど、娯楽として消費するにはしんどいのかな、と思います。
林:キャラクターや人柄を伝えるメディアとして、動画はいいですよね。DPZは情報よりも人柄をテキストで伝えているけど、それなら動画のほうがわかりやすい。
ヨッピー:面白さがよくわからないYouTuberも、ずっとやっていると固定ファンが付き始めるんですよね。
林:内容の面白さっていう勝負から飛び出して、親しみだけでいけるから……。動画=最強という意見(苦笑)。
ヨッピー:ただし動画が長く続くのはわかるけど、YouTuber全盛期がいつまで続くかはわからないなと、ずっと昔から思っているんです。『世界の果てまでイッテQ!』がYouTubeで見られる時代が来たら、ユーザーもそっちに流れるかもしれませんし。
映像作家の森翔太さんがTwitterで投稿している、奇抜なギターを作り続ける動画とかも、いわゆるYouTuberとは違うテンションですよね。
宮脇:林さんのなかで、ここ15年での転換期って何がありましたか?
林:4年前に始めた「地味ハロウィン」【※】ですかね。結構ハードルの高いイベントかと思ったら、かなりの人が来てくれた。面白いことをやりたい意欲はみんな持っていて、そこにうまく穴を開けるといいんだなと思いました。だから今後は面白い仕掛けを作って、広く人を呼ぶ方向に行こうかな、と。そのほうが楽ですし(笑)。
【※】地味ハロウィン:「本社から現場に来た人」「キャバクラのチラシ配り」など地味な仮装を披露し合うイベント。
宮脇:「地味ハロウィン」というキーワードが、みんなから“面白力”を吸い上げた、と。
林:そう! 面白いことを考えたりアイデアがいっぱいあったりしても、それを1000文字、2000文字の記事にするためには、それなりのスキルが必要になってしまう。それが表現する上でテキストの良くないところだと思っていて。アウトプットの方法が合っていないだけで、YouTubeにしろTikTokにしろ、面白さを簡単に形にできる仕組みがあればいいんだろうな、って。
尖った記事に賛同してくれるスポンサー、求む
宮脇:記事の書き方について、ここで変わってきたな~なんてことはありますか?
ヨッピー:僕は明確に変えていますよ。単純に、昔のような過激なことがもうできない。電車の中で縛られる写真なんて撮影して記事に使っていましたが、今やったら炎上しますからね。
あと、DPZには江ノ島くんというとにかく食べてばかりなライターがいて。先日「みんなのごはん」で「たくさん食べる人を見たい」というテーマで、彼が食べている姿を眺め続ける記事を書いたんですよ。僕が無理やり食べさせているような書き方だとパワハラと言われそうなので、「江ノ島くん、健康状態は大丈夫なの?」とか健康に気を遣うセリフを挟んだりして、予防線を張っていきました。
宮脇:4、5年前だと、「もっと食べなよ」みたいな展開にしていたわけですけどね。
ヨッピー:うすうすと感じているのは、ある記事へブツブツ言っている人が2%くらいいたら、2年後にはその意見が主流になるんですよね。それを早めに察して「次にこれやるのはもう危険かな」と気にするようにしています。
宮脇:ああー、その感覚、本当に合っている気がします。
林:最近、アルコールの記事に厳しくなったよね。
ヨッピー:そうそう、怖いんですよ。以前に「ストロング系アルコール飲料を使ったTwitter選手権をやるから、審査員をやってほしい」という案件が来たんです。ただ、ちょうどその頃、「最近流行っているアルコールがきつい酒って、やばいんじゃない?」と危険視する声がちらほらTwitterで上がり始めていて。
そういうのがあったので、「いまの流れ的に、飲酒を煽るような企画はよくないんじゃないか」とクライアントにも伝えました。そのあたりはもちろんクライアントも理解していて、大丈夫です、煽るような企画じゃないですって。
宮脇:DPZさんも、何度か飲み歩き記事を書いていましたよね。
林:記事から出るトーンによって違うみたいで、怒られないこともあるんですよ。どのへんが怒られるのか研究中といいますか。
メディアのなかで、インターネットが一番公共に近いなと思うんです。月額の通信料とスマホがあれば見られるから、一番安く接触できる。逆に、雑誌とかは割と好き勝手できます。
宮脇:雑誌で怖いのは読者ハガキくらいですから。
ヨッピー:よく雑誌やテレビの人が「インターネットのほうが好き勝手できていいよね」と言ってますけど、全然逆ですから。「雑誌の方がよっぽど好き勝手できるわい!」っていう。
林:暴風雨の真っ只中だよ。
宮脇:もともとネットにはアンダーグラウンドな楽しさがありましたが、メインストリームに出てきてつまらなくなったな、なんて思うことはありますか?
ヨッピー:僕は思いますよ。メディアは、抗議されまくっても全然平気だと言ってくれるスポンサーを募ったらいいんじゃないですかね。『水曜日のダウンタウン』って、やっていることは面白いのにクレームをめっちゃ受けるじゃないですか。
「自分たちは尖った面白い企画をやります。クレームが来るかもしれないけど、賛同してくれるスポンサーを募集します」と言ったら、手を挙げるスポンサーもいるんじゃないかな。イケイケのIT企業とかだったら、多少文句言われても微動だにしない気がしません?
林:レッドブルとかスポンサードしてくれないですかね。
ヨッピー:「僕らは炎上しても全然平気だから、好きなことやってください」と言ってくれたら、こちらもギャラを割引したくなりますよね。
ライターは稼ぐのに向いていない職業かもしれないけど……
白熱したトークセッションはあっという間に時間が過ぎ、質疑応答タイムへ。これまでの話を踏まえた上で、参加者から「ライターで稼ぐには?」という質問が飛び出しました。
参加者:仮に今、「おもしろライター」として稼ぎたい人がいたら、どういう風に記事で活路を見出していったらいいんでしょうか?
林:文章で? 動画じゃなくて?
参加者:はい(笑)。
ヨッピー:稼ぎたくてライターになるのは、間違っているんじゃないですか?
林:不動産取引とか宝石の売買とか、利ざやの大きい仕事が他にもいっぱいあるからなー。儲けを狙うならそっちの仕事のほうがいい。お金目当てでライターになると、「○○(芸能人)の年収は?」とか、トレンドブログみたいな記事を書かないといけなくなる可能性がある。
ヨッピー:ライターって「書きたくてしょうがないやつ」と「書くしか能力がないやつ」がなる職業だと思うからなぁ。生活できているのも、そんなやつらがずっとやっているうちに何だかんだやって来られた、という結果論なんですよね。
ライターのpatoさんなんて、増田(はてな匿名ダイアリー)に名前も出さずにすさまじい長文を投下するんですよ。それで千何百件もブクマ(はてなブックマーク)される。
だけど一銭にもならないし、下手したら誰にもpatoさんだと気づかれずに終わっているかもしれない。それでも、書きたいから書いてしまっている。お金を稼げないとは言わないけど、お金稼ぎを目的にするならあんまりおいしい業界ではないです。
林:そういう「ブクマが伸びた」みたいなネットの価値を、お金にうまく変えてくれる人が現れたらいいんですけど。そのうちガラッと評価経済になって、そうした評判で買い物ができるようになったら食えるかもしれない(笑)。
ヨッピー:でも、お金以外の魅力はいっぱいある職業ですよ。
林:取材していれば、頭がよくなっていくし……。
宮脇:物知りになりますよね。経験もいっぱいできるし、飲み会も楽しくなります。
林:ライターになれば、そういう豊かな人生が送れます!(笑)
短い時間ながら、ネットのさまざまな転機や変化を参加者と振り返りつつ、林さん、ヨッピーさんをゲストに向けたセッションは、最後まで大いに盛り上がりました。続くトークセッション2では、「ノオトの編集者って何してるの? 最近のコンテンツ制作裏事情」をテーマに、Webメディアの現状を考えていきます。
(文:黒木貴啓/ノオト)