投稿日:2016年12月12日

コワーキングスペースになくて、コワーキングスナックにあったもの

東京・五反田のコワーキングスペースCONTENTZ(コンテンツ)管理人の宮脇と申します。私はコンテンツメーカー(編集プロダクション)有限会社ノオトの代表編集者でして、世間的にはいわゆる社長という職位にいます。社長というと偉い人っぽく見えますが、11人という小さな会社では「スーパー雑用係」を兼務しながら日々精進しております。

戸高さん(右)と宮脇 宮脇 淳(みやわき あつし)※写真左
1973年3月4日、和歌山市生まれ。雑誌編集者を経て、25歳でライター&編集者として独立。5年半のフリーランス活動を経て、コンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立した。編集者・経営者として企業のオウンドメディアづくりを手掛けている。
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さて、過去2年連続で避けてきましたが、今回は「コワーキングスペース運営者限定アドベントカレンダー Advent Calendar 2016」【※】に参加してみることにしました。というのも、2014年7月の会社設立10周年の節目に当コワーキングスペースを開き、さらに今年7月にはオフィスのすぐ近所にある怪しい飲食街・通称「五反田ヒルズ」内に、コワーキングスナックCONTENTZ分室を開設したからです。

【※】日替わりリレー形式でコワーキングスペース運営者がブログを書く12月の風物詩。

コワーキング×スナック。この文字の並びに馴染みのある方はあまりいらっしゃらないかもしれません。なぜなら、私が勝手に組み合わせた造語ですから(笑)。前半のコワーキングを乱暴に訳すと「共働」「協業」で、後半のスナックはあのスナックです。そう、妙齢のママがいて、多少それより若いチーママがいて、お客さん(主にオッサン)が夜な夜なカラオケなどを歌いながら楽しく酒を飲み交わす場末の盛り場です。

もともと五反田ヒルズに出入りし、ビル内の飲食店で飲み歩いていた私がなぜコワーキングスナックを開くことになったのか、その経緯はこちらのエントリーにも記しましたが、

▼コワーキングスナック CONTENTZ分室、7月1日(金)グランドオープン!
http://contentz.jp/news/snack_newopen/

7月1日のオープンから半年弱、この場を作った過程や発見について、つらつらと書いてみたいます。

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そもそもですが、コワーキングスペースCONTENTZはドロップインを排除し、会員制にしました。これは有限会社ノオトがコンテンツメーカーとして、ライターさんを中心に、編集者、デザイナー、エンジニアなど、近しい業界内のクリエイターさんたちとのつながりを強化するためのコワーキングスペースにしようと考えたからです。

つまり極端な話、ドロップインによる日銭を稼ぐことを考えませんでした。あくまで本業は編集仕事、良質なコンテンツを作ることで、昨今問題になっているパクリなどとは無縁のポジションを築き、優秀なフリーランス、あるいはその卵の方々と一緒にコンテンツメイクしていくリアルな場づくりに取り組みたかったのです。同時に、社員たちもこのスペースで打ち合わせをしたり、インタビュー取材をしたり、撮影をしたりするため、コワーキングスペースは我々の仕事に多大なる貢献をしてくれる場となりました。

しかしその一方で、会員制の限界を感じていました。ドロップインは普段出会えない人が来る可能性もあり、その新しい風が吹き込むことでスペースを豊かにしてくれる側面があるはずです。CONTENTZにおいても、月1回ペースで非会員も参加OKの「ライター交流会」を開催し、その時々では話が盛り上がるものの、密な関係性を気づくのは実に難しい。いつでも気軽に来られるかどうか、そこで本音を出せるような場ができないものか、これが管理人の私にとって大きな課題でした。

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そこで登場したのがコワーキングスナック構想です。きっかけは、足繁く通っていた飲食街に20年間眠ったままでいたスナック居抜き物件との出合いでした。店のドアを開けてJR五反田駅のホームまで2分、広さ8.5坪、家賃13.5万円(税別)。一見さんが安易に立ち寄れない雰囲気も、逆に秘密基地っぽさ、会員制のサロンっぽさを醸し出していて、内見したその場で契約を決めました。友人が週2回、ロックバーを営業したいと申し出てくれていたのも決め手の一つです。

コワーキングスナックを開く上で、店の特徴を以下のように定めました。

1)禁煙にする
2)カラオケを置かない
3)電源、Wi-FIを開放する
4)宣伝は、友人・知人からスタート
5)お金に余裕のある先輩にごちそうしてもらう
6)ママやチーママが楽しんで仕事してもらえるようにする
7)私(宮脇)も毎晩、顔を出す

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1〜3は決めの問題です。スナックとはなんぞや? これを問うたとき、私は店のスタッフ(ママやチーママ)を含め、お客さん同士がつながり合う雰囲気がスナックっぽさであると考えたので、あえてバーではなくスナックを看板にしました。実際の雰囲気は、バーとスナックの中間ぐらいかもしれません。

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4は開店前にPeatixで「ボトルチケット」を売りました。まずはボトルキープしてくれる身近なファンを獲得することが来客数に影響すると考えたからです。

▼西五反田に「コワーキングスナック」、Peatixでボトルキープ呼び掛ける(品川経済新聞)
http://shinagawa.keizai.biz/headline/2608/

この試みはなかなかうまくいき、Peatixでは53本のボトルが売れました(宣伝効果もそれなりの手応えあり)。そして現在は100本近いボトルキープがあり、お客さんが新しいお客さんを連れてきてくれる好循環が生まれています。また、品川経済新聞を運営していることあって、姉妹誌「みんなの経済新聞ネットワーク」の関係者がちょいちょい立ち寄ってくれることも(過去もっとも遠い来客はバンクーバー!)。今の時代、全方位的な宣伝は必要ないと思うのです。まずは身近で隣にいる人、そしてその人の隣にいる人とつながること。このゆるやかな連鎖が、会員制コワーキングスペースの弱点をコワーキングスナックがカバーする方向に動き始めました。

もう一つ、コワーキングスナックを運営する上で頭を悩ませたトピックの1つが価格帯でした。一般的に、スナックの料金体系は謎に包まれていまして、なかなか一概に説明しづらいのが現状です。

▼スナックの料金システムについて(Facebook)
https://www.facebook.com/atsushimiyawaki/posts/1327642703932626

とくに若い人はお金に余裕がなく、スナックは敷居が高いだろうと感じていました。まあ、一見さんだと、ママの気分しだいでぼられたりすることも少なくないようで……。明朗会計は、スナック業界ではあまりない慣習なのかもしれません。

▼コワーキングスナック Price
http://snack.contentz.jp/price.html

当店では料金体系をあえてかなりクリアに表示するようにしました。ビールやハイボールは500円〜で、気軽に1杯でも飲める価格設定です。ただし、店を維持するお金は必要ですし、スタッフにきちんとギャラを支払いつつ黒字にならないと、場の存続そのものが危うくなってしまいます。

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そこで、ちょっと誤解される言い方にはなってしまうのですが、お金に余裕のあるお客さんから「しっかり取る」ことにしました。

狭い店なので、隣で飲んでいる人たち同士を気軽に紹介することはしょっちゅうあります。なかには女性おひとりで来られる方もいますので、ボトルキープいただいているお客さんに「一杯ごちそうしてあげませんか?」とお願いしてみると、みなさん「どうぞ、どうぞ」と気持ちよくOKしてくださいます。これってお酒の席ならではのシーンなんですよね。あと、何か祝い事があったら、シャンパンを抜いてもらって、売り上げに貢献いただいたりもしています。いつもありがとうございます、シャチョーサン!

そんな甘えも許していただきつつ、7月のオープン以降は大勢のお客さまにご利用いただいておりますが、やはりといいますか、いまだに「このスナックのどこがコワーキングなんですか!(笑)」とツッコまれることがしばしばあります。当初は「電源とWi-Fiがあるので、ノートPCを広げて酒を飲みながら仕事できますよ。最高じゃないですか!」と言い張っていたものの、30分もすればみなさん本格的に飲み始めますよね。仕事になりません。

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でも、実は酒の席におけるコワーキング的なものって、ママやチーママとの、あるいはお客さん同士の他愛もない会話に潜んでいるんだなと思うようになりました。これは上記6と7につながる話です。

編集業界は昔から豪傑が多く、酒を飲みながら激論することもあれば、くだらない話をすることもあります。酒の場が「ワーキング」になるのかと問われたら、「酒を飲むこと自体は仕事ではないが、次の仕事につながることも少なくない」が私の答えです。

幸いなことに、ママもチーママも楽しみながらカウンターに入ってくれていますし、私自身も店でいろんな方と楽しく会話させていただいています。仕事の相談とかしこまるほどではないけど、「こういう人いないかな?」「こんなことを考えているのだが、どう思う?」というふうに、何となく意見を聞いてみたいってことはありますよね。ONの場ではかしこまりすぎるけど、OFFの場で酒でも飲みながら気軽にコミュニケーションできるのが、コワーキングスナックならではの意義ではないでしょうか。知らんけど。

……というわけで、オーナーである私自身もコワーキングスナック運営に関してまだまだ試行錯誤していますが、PCの前に向かっているだけが仕事ではありませんし、結局のところ人と人のつながりが新たな仕事を生むと思うんですよね。酒の力は偉大だ。

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最後に。スペースを持つことって、一国一城の主になると同時に「その場から動けなくなること」でもあります。会社をつくればそれに縛られ、コワーキングスペースをつくれば、そこにいる人として「柱化」しなければいけません。もちろん、スナックも同様です。それを受け入れながらも楽しめるか。これから場づくりを考えている人は、まずは真剣に自分自身に問うてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、私はコワスペもコワスナも作ってよかったな、と思っています。睡眠不足と肝臓の数値には気をつけつつも……。そんなわけで、みなさまのご来店をコワーキングスナックでお待ちしております〜!

※スナック営業は、火・水・金・土です(月・木はロックバーになります)。

それでは、12月13日担当のChie Mizukamiさんにバトンを渡したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。