ノオトオフィス増床お披露目! 「編集×場づくり×コミュニティ」を考える #ライター交流会 #ライター忘年会 vol.24 公式イベントレポート
2018年12月15日(土)、ノオトのオフィスに併設するコワーキングスペース「CONTENTZ」で第24回 #ライター交流会を開催しました。テーマは、「『編集×場づくり×コミュニティ』を考える」です。
オフィスを増床して、会社の中に居酒屋風の会議室を作りました。通常は居酒屋でロケをする場合、個室を予約してお店側の許可をいただきますが、これでもう取材場所に困らないはず。背後の障子を開いて、肩越しのアングルも撮影できます。試し撮りしたら、本当に居酒屋すぎてニッコリ。 pic.twitter.com/4uN1IDbBR3
— 宮脇淳(ノオト代表) (@miyawaki) 2018年12月17日
ノオトでは、コワーキングスペースの運営や #ライター交流会の開催など、編集者・ライターが集う場作りに取り組んでいます。また新たに、オフィスを増床し、取材や撮影に便利なスペースを設けました。ライトの光量や色味が調整できるインタビュールームや、「居酒屋」「喫茶店」をイメージした会議室などをご利用いただけます。
そんな経緯から、今回はコンテンツ制作に携わりながら、リアルな場作りやコミュニティ運営を行う3名のゲストを迎えたイベントを開催しました。前半はノオト社員による公開インタビュー、後半はトークセッションです。盛り上がりを見せたトークの一部始終をお伝えするのは難しかったので、ダイジェストをお楽しみください。
■この街に必要な場所を作る – 草彅洋平(くさなぎ・ようへい)さん
1人目のゲストは、草彅洋平さん。文学作品に登場するメニューが食べられる日本近代文学館の併設カフェ「BUNDAN COFFEE & BEER」や、ホストが書店員を務める「歌舞伎町ブックセンター」のプロデュースなど、型破りなコンセプトで東京の街に変化を起こしています。インタビュアーはノオト・水上が担当しました。
水上:両親が編集者という環境で育ち、ご自身も雑誌編集者としてキャリアをスタートしたそうですね。
草彅:もともとは、IDEE(イデー)というインテリア会社で、いまでは古書値で高騰している雑誌『sputnik whole life catalogue』などを作っていました。12年前に会社を設立し、最近は場所を作る仕事ばかりやっています。たとえば、街にラーメンを売りたい人がたくさんいると、ラーメン屋が乱立し、お互いに消耗してしまいますよね。逆に僕は、街の状況を考えてから、何かを作ることがすごく好き。今この街にない店を作るのが趣味ですね。
水上:最近では、宗教グッズを集めたバー「GOD BAR by スナック うつぼかずら」を作られたとか。
草彅:デザインの良さに惚れ込み、世界各国の宗教団体グッズを自分の趣味として集めています。たとえばベトナムのカオダイ教の衣装は60着持っているし、現地の仏具屋で1回50万円くらい神様を買い集めるため、アジアの仏具屋界隈から「ゴッドハンター」と呼ばれるようになりました。ついに自宅に収まりきらなくなり、渋谷に「GOD BAR」というバーを作って飾ることにしたんです。僕、コレクター気質なんですよね。8年前にプロデュースした「BUNDAN COFFEE & BEER」にも、私物の蔵書2万冊を置いています。
水上:個性的な実店舗を作るのは、一人だけではできない仕事だと思います。さまざまな人を巻き込むために心がけていることはありますか?
草彅:やりたい人を見つけるしかありません。僕はサウナも大好きで、来年1月からサウナのイベントを開催します。サウナは冬に向いているし、女性にも良さを知ってほしい。宗教と並んで、自分の中で最もドーパミンが出るのを感じるコンテンツです。でも、企画当初は周囲の反応が悪かった。そこで、説得しなければいけない方を一人ずつサウナに連れて行きました。そもそもサウナは1960年に……。
水上:サウナの話が止まらなくなってきましたが(笑)、そうした地道な説得を続けることで、熱のある人が集まって来るということですね。
草彅:自分の好きなものは、熱心に説いて理解してもらうしかない。だから僕は、今ハマっている「宗教グッズ」と「サウナ」についてはひたすらしゃべり続けます。今日も覚悟してください(笑)。
■嘘をつかない設計で人を集める - 最所あさみ(さいしょ・あさみ)さん
2人目の登壇者は、最所あさみさん。NewsPicksのコミュニティマネージャーを経て、現在はSNSエディターに。また、個人の活動では、小売の文化や店舗メディアに関する情報を盛んに発信されています。ノオト・阿部がお話を伺いました。
阿部:改めて「コミュニティマネージャー」の仕事について教えてください。
最所:私が考えるコミュニティマネージャーの役割は「コンテンツ」「プラットフォーム」の2つを作ることです。容れ物を作り、その中に何を入れると、どんな人が集まって、何が起きるのかを設計します。
阿部:そもそもコミュニティには、マネジメントをする役割の人が必須だとお考えですか?
最所:本来、コミュニティはマネジメントできる性質のものではないと思います。流動的だし、再現性があるようでないので。誰に何を届けたくて、そのために何をしたいのかを噛み砕いて説明できることが必要だと思います。どちらかと言えば「旗を立てる人」の意志が大切ではないでしょうか。
阿部:コミュニティマネージャーとは別に、「旗を立てる人」=中心人物が存在するということでしょうか。
最所:その場合もありますし、コミュニティマネージャーが旗を立ててもいいんじゃないかな。「人が惹かれるもの=旗」をより多くの人に適切に届けるにはどうすればいいのか、コンテンツとプラットフォームの両面から考えるんです。
阿部:最所さん自身は、どのようにコミュニティを設計していますか?
最所:まず、立ち上げ時点で嘘をつかないこと。きれいごとだけ言っておけば人は集まりますが、後でその期待を裏切ることになります。人が居つかなければ、コミュニティは生まれません。
また、人は多面的で、その場所や触れるものによって引き出されるものが異なります。たとえば、NewsPicksのユーザーは、NewsPicksだけを読むのではなく、他ジャンルのメディアを読みたい時も当然ある。大事なのは、その人のどの人格にアプローチしたいかということです。
阿部:個人で運営するコミュニティについても教えてください。
最所:フリーランス時代から続ける有料マガジンをきっかけに、オンライン上でやり取りをするコミュニティを副業として運営しています。メンバーは70名ほど。メンバーは主に、小売業界に当事者として関わっている方ですね。
メンバーには「ビジネスにすぐ役立つノウハウのようなことは話しません」と公言しています。話題に挙げるのは、私がいま興味のあることや、思想性、時間的な耐久性のある話ばかり。私の意見が正しいと思われるのも困ります。教祖にはなりたくないんです。だから、すぐ役立つものが欲しい人は抜けていきますね。
阿部:現在のメンバーにも、当初はビジネス目的で参加した方がいるかと思います。そうした方も、活動を経てコミュニティに属する意味が変わっていくのでしょうか?
最所:そうですね。大人になってから友達を作るのって、本当に難しいじゃないですか。話が通じる人って意外と見つからない。このコミュニティは、話が通じる人を見つけるきっかけになっているかもしれません。役立つだけの関係は、仕事で十分ですから。
一旦は私の元に集まったとしても、その後は私との交流ではなく横のつながりを作りたい。そのためには、私がいなくても勝手に話が進むくらい、メンバー同士で共有できる指針を立て続けるようにしています。
■「面白いことをしたい欲」を満たす型を用意 – 林雄司(はやし・ゆうじ)さん
最後のゲストは、デイリーポータルZ(以下、DPZ)のウェブマスター・林雄司さんです。Web記事だけではなく、さまざまな個性派イベントを企画するDPZ。最近では、有料会員制度「デイリーポータルZ 友の会」を「はげます会」にリニューアルしました。インタビューを行うのは、ノオト・杉山です。
杉山:DPZは数々のイベントを開催されていますが、「Web上のコミュニティ」と「リアルのコミュニティ」の印象の違いから教えてください。
林:そもそも「コミュニティを作ろう」と意識することはないですね。たとえば、個人サイト「死ぬかと思った」は、どうでもいい話の文末に「死ぬかと思った」の一行をつけると面白い、というコンテンツが発端です。「面白い型を用意したから、みんな何か書いてみない?」という提案がコミュニティになっているのでしょうか。
3年目を迎えたイベント「地味なハロウィン」は、会場の文脈が共有できる点で、ネットと比べてリアルな場のほうが優しい雰囲気ですかね。ネットだと、参加していない人が「つまらない」とか言うじゃないですか。同じことを会場で面と向かって言う人はいないので。確かにわかりにくい仮装の人もいますが、知り合い同士で来る人が多いので、元の関係性のおかげでそれほど滑りません。分からなかったら、その場で聞けますし。
杉山:来場者が年々増えていると聞きますが、イベントの参加者を増やすコツはあるのでしょうか。
林:意識的に増やそうとはしていませんが、イベントとしての自由度を下げるよう心がけています。「なんでもいいから面白いことやってください」と言われたら参加者は嫌がりますよね。
杉山:確かに困ってしまいますね。
林:やることが決まっているほうが、参加するハードルは低い。たとえば、DPZに「セレブが来た!」という記事があります。ストールを巻いてサングラスをかけた姿を望遠レンズで撮影すると、海外セレブに見えるよ、という内容で。「面白いからみんなもやろう!」と投稿を募ったら、1件しか来なかった。その代わり、「ストールとカメラを持って代々木公園で待っています」と言ったら何十人も来たんです。
杉山:面白いことをやりたい人自体は、確かに意外と多い気がします。「後はやるだけ」にしておくのがいいんですね。
林:世の中に大勢いるはずの「面白いことをやりたい人」にフィットする型を発明すると、みんなやり始める。カラオケやTikTokもそうじゃないですか。面白いことをしたい欲がインスタントに満たされるコンテンツがいいのかな。
杉山:ところで、DPZの有料会員制度「デイリーポータルZ友の会」が「はげます会」に名前を変えたそうですね。どうしてこのネーミングにしたのでしょうか?
林:これまで「友の会」で用意していたグッズがもらえる制度を廃止して、かつ一律1,000円に値上げしました。ひどいですよね(笑)。ひどいので、これは見返りを求める会じゃありません! とアピールするために名前を変えました。友人どころか、おばあちゃんのようにDPZを甘やかしてくれる人の会です。入会案内には「入っても何一ついいことはない」と書いてあります。
杉山:会員にはどんなコンテンツを提供しているんですか?
林:俺がFacebookで日記を書いているだけ。会員は600人ほどいますが、インサイトがよく分からない。オンラインで飲み会をやろうと呼びかけても、10人しか集まりませんでした。コミュニケーションを求めていないのかもしれませんね。余計なことをするのも良くないし、何をしていこうかな……。
■コミュニティは続かなくても良い? 大盛り上がりのトークセッション
三者三様のお話をいただいた後は、後半のトークセッションへ。参加者から事前に集めた質問をもとに、ゲスト3名に数々のエピソードを伺いました。司会は「CONTENZ」管理人であるノオト・鬼頭が務めます。
●場を継続することの難しさ
鬼頭:順調に立ち上げた場所やコミュニティも、継続するのはなかなか難しいものだと思います。これまでの活動で難しさを感じた場面や、上手く続けるための工夫があれば伺いたいです。
最所:前半で林さんが仰っていた「甘やかしてくれる人を集める」こと。すぐ楽しめるコンテンツがない場合は、立ち上げ時の移り気な参加者が離れていくこともあります。そこに惑わされないほうがいいです。場がなくなるのは、主催者がやめる時ですから。
草彅:実店舗のような場であれば、賃料が0円になればいいと思っています。面白い店を始めて街が盛り上がると、大家が賃料を上げすぎて立ち行かなくなる。たとえば最近、世田谷区の松陰神社前エリアの活気が注目されているのは、賃料が安く若者が集まったから。大家さんが勘違いして賃料を上げてしまうと、もはや若者は集まらないでしょうし、せっかく活気のある街が盛り下がってしまう。今とは違う賃料の新しい仕組みを作りたいですね。
林:でも、突然やめちゃってもいいんじゃないですか? 何が起こるか分からないコミュニティーは面白い。僕は今年の「地味なハロウィン」でクタクタに疲れて、来年はやめようかなと思っていたところ、会場で参加者の方に「林さん、嫌になってるでしょう」と見抜かれました。どうせバレてしまうから、無理に取り繕わない方がいいです。正直に「大変だからやめます」と言いましょう。「来年からは軽トラをひっくり返す会にします」とか。
最所:場所もコミュニティも、続くことが絶対正義ではないですよね。そこで生まれたつながりが緩くクラスタになっていくのが、一つのあり方だと思います。
●場作りに成功の定義はある?
鬼頭:それぞれの活動において、成功の定義や基準のようなものはありますか?
草彅:対象への愛は必要ですね。愛のないものは作っていてつまらない。僕は宗教のデザインがすごく好きなんですよ。神グッズはかっこいい。
最所:愛は大事ですね。自分が楽しみ続けることができれば成功。コミュニティ全体で見た時も、メンバーが増えれば共通点がアップデートされます。その時々で主になる人・集まっている人が楽しんでいるかが基準になるのでは。
それと、コミュニティマネージャーは誰もがKPIに悩んでいますが、「コミュニティにKPIを求めている時点で達成できないのでは」と思います。たとえば、ピラミッドは投資回収に4000年かかっているそうですが、現在は観光資源としてプラスに転じている。
コミュニティもそれに近いものがあります。四半期で会員が何人集まったかよりは、集まったファン層を育てることで30年先に組織自体がより強くなることを目指すほうがいい。短期的な視点で人数や継続率だけ見ても楽しくないです。
林:僕は、楽しくすることでお金の話から方向を逸らしています。DPZで「今年買って良かったもの特集」をやるとき、ライターは書いてくれないかと思ったんです。自分のツイッターでやったほうがアフィリエイトの収入が入るから。でも、僕が楽しく原稿を書いているのを見て、乗ってきてくれた。しめしめと。(注:後日、林さんより「あとでライターに聞いたところ、僕の意図はわかった上で乗ってくれたようです」とコメントをいただきました)
草彅:林さんのやっていること、まさにそれですよね。楽しそうですもん。
最所:楽しいものや好きなものって、合理的に考えるものじゃないですからね。
草彅:合理的かどうかを超えちゃいますよね。だから、「成功」って言葉は必要ないんじゃないかな。
●これから先、「場作り×編集者」はどうなっていく?
鬼頭:編集者によるコミュニテイやリアルな場作りは、今後ますます求められるのではと思います。「場の編集」は、これからどう変わっていくのでしょうか。
草彅:自分の場合になりますが、街に足りないものを取りまとめて、新しいスポットを作り続けていきたいです。実は最近、またノリで物件を借りました。渋谷にある風俗店の無料案内所跡を改装して、「SHIBUYA TOURIST INFORMATION OFFICE」という外国人向けの観光案内所を勝手に始めようと思っています。
今の渋谷に欠けているのは、カルチャーがどこにあるのか分かりにくいこと。この店でしか買えない、渋谷のカルチャーガイドブックを作りたいな。英語が話せて観光案内のできる人、ぜひ一緒にやりましょう!
最所:今は編集者やライターの分断がかなり激しいと感じています。ネット業界と出版業界、出版業界の中でも新聞・雑誌・書籍の作り手はさらに分断されていて、共通言語を持っていません。でも本当は、何か面白いコンテンツがあったときに、それをベストな形で届けるにはどうしたらいいかを横断的に考えるべきじゃないでしょうか。
そのためには、自分自身がいい消費者であり続けること。本を読んだり、使いやすいアプリの研究をしたり、何か集めたり、あらゆる物事のインプットを義務感ではなく好きでやっちゃう人が、これから活躍するのだろうと思います。
林:ライターも編集者も、物好きなコレクターは多いですよね。家の狭さにも限界があるし、最後はどこかに博物館を作ればいいんじゃない? 個人が地方でやっている博物館とかに取材に行くと、話の長いおっちゃんがレコーダーの電池が切れるまで解説してくれるんですよ。最終的には、あれがライターのアガリじゃないだろうか。
最後は、ライターの最終形態にまで話が及ぶことに。場作りのエピソードから面白博物館情報まで、ゲストの縦横無尽なトークに、会場は大変な盛り上がりを見せました。
師走の慌ただしい時期にも関わらず、多くの方にお越しいただきました。草彅さん、林さん、最所さん、そしてご参加いただいた皆さま誠にありがとうございました。ノオトでは今後も「 #ライター交流会」の開催を続けていきます。地方開催も予定していますので、遠方の方もお楽しみに。
また、1月19日(土)には「ウェブメディアびっくりセール」に出店。今回のゲスト・林雄司さん率いるデイリーポータルZ主催の展示即売会です。ノオトのブースでは、同人誌「ライター学習帳」を販売予定。「ライターのなり方」「インタビューのやり方」に続く、新刊の特集テーマは「企画の立て方」です。お近くの方は、ぜひ遊びに来てくださいね!
(文:森夏紀/ノオト)
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