投稿日:2019年7月31日

ウェブメディアはどう変化する? これからのコンテンツビジネスを考える #ノオト15th レポート(後編)

2019年6月29日に開催された「ノオト15th大感謝祭」。イベントでは、さまざまなゲストをお呼びして、コンテンツやメディアについてのトークセッションを開催しました。

さて、これからお届けするのは「ウェブメディアはどう変化する? これからのコンテンツビジネスを考える」をテーマにしたセッション3の様子です。

ウェブメディアの世界では今後、5G(第5世代移動通信システム)の浸透によって、動画を含めた大容量コンテンツを取り巻く状況も大きく変わることが予想されます。1年後、5年後、10年後……ウェブメディアやコンテンツビジネスはどうなっていくのでしょうか。編集者や経営者の視点を交えながら予測します。

・メディアを続けるためには? DPZ林×ヨッピー×ノオト宮脇がネットコンテンツ15年を振り返る #ノオト15th レポート(前編)
・ノオトの編集者って何しているの? 最近のコンテンツ制作裏事情 #ノオト15th レポート(中編)

<登壇者プロフィール>

  • 明石ガクト

2014年6月、ミレニアル世代をターゲットにした新しい動画表現を追求するべくONE MEDIAを創業。独自の動画論をベースにInstagramやYouTubeなどオンラインでの配信のみならず、山手線まど上チャンネルや駅ナカOOHなどデジタルサイネージでの動画配信を行い圧倒的なエンゲージメントを達成している。個人の活動としても、2018年アドテック東京にて「Brand Summit Best Presenter Award」を受賞。NewsPicks Bookから自身初となる著書『動画2.0』を出版。Twitter:@gakuto_akashi

  • 日西愛

1983年生まれ。ザッパラスで携帯ECサイトの運営を経験後、アイレップでSEOサービスに業務に従事。楽天市場のSEO担当やso.laのSEOコンサルタントを経て、BuzzFeed JapanではSNSを中心としたマーケティングを経験後、現在はフリーランス。2015年頃から非常勤ライターとして「ジモコロ」「みんなのごはん」「SPOT」などに寄稿。Twitter:@sunwest1

  • 朽木誠一郎

1986年生まれ。2014年3月に群馬大学医学部医学科を卒業。2014年4月にオウンドメディア運営企業に入社。同年9月に編集長に就任し、サイトグロースを担当。2015年10月に編集プロダクション・有限会社ノオト入社。記者・編集者として基礎からライティングや編集を学び直す。2017年4月にBuzzFeed Japan News入社、2018年3月に単著『健康を食い物にするメディアたち』を出版。2019年3月に朝日新聞に移籍、引き続きwithnewsなどのウェブメディアで記者・編集者として活動する他、朝日新聞社デジタルディレクターに就任。Twitter:@amanojerk

  • 宮脇淳

編集者/有限会社ノオト 代表取締役。1973年3月生まれ、和歌山市出身。雑誌編集部のアルバイト、編集者を経て、25歳でフリーランスのライター&編集者として独立。2004年7月にコンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立した。ウェブコンテンツの編集を主軸にしつつ、コワーキングスペース「CONTENTZ」(コンテンツ)、コワーキングスナック「CONTENTZ分室」、エッセイ投稿サイト「ShortNote」の事業継承など、多様な編集活動に取り組む。Twitter:@miyawaki

 

動画が増えた時代に、メディアが意識しなければならないことは?

(トークセッションでは序盤から、メディアにまつわる最近の話題についてフルスロットルで語っています。本記事では掲載できる範囲でお伝えするので、ご了承ください……!)

宮脇淳(以下、宮脇):最近、新聞社が動画メディアを買収したニュースが話題になりましたね。5Gの訪れによって、これからさらに動画の市場拡大が予想されます。

一方で、動画コンテンツが増えると、飽和状態に陥り、以前のように1つひとつのコンテンツが見られづらくなるのでは……? と思うのですが、みなさんどうお考えですか?

明石ガクトさん(以下、明石):昨年、僕は著書『動画2.0』で「5G時代が来たら、動画コンテンツの量が増える」と書きました。「増える」なんてものじゃないと予想しています。

今まで数が少なかったからこそ人の目を引いていた動画も、ゆくゆくはテキストコンテンツと同じくらいの量になるのではと踏んでいます。

日西愛さん(以下、日西):SEO観点では、動画で行うことは記事とさほど変わりません。なぜなら、Googleのクローラーは動画そのものを識別できず、文字情報を解析していますから。

現状、動画は検索性の低いコンテンツです。検索ニーズを深めてリードを獲得するのか、SNSやYouTubeなどのプラットフォームで成長を図るのか、ジャンルに合わせて考えなくてはなりません。

朽木誠一郎さん(以下、朽木):最近、ニュースメディアがTikTokをはじめとしたSNSに取り組む事例が見られます。動画そのものも、数十秒のシンプルなものと、尺をたっぷり使ったものとに二極化していくと思うので、企業として動画をどのように活用するのか考える必要があるでしょう。

2020年を機に動画市場はより大きくなるかもしれませんし、取り組む価値はあるだろうと思います。ただ、現在のところ、動画の制作ノウハウを持っている企業は決して多くないので、例えば新聞社はどのように動画を活用していくのか、なおさら考えるべきタイミングなのだろうなと。

宮脇:以前、クラシコムの代表である青木さんと一緒にイベント登壇したのですが、コンテンツにはインフォメーションとコミュニケーション、IP(知的財産)の3つの役割があるという話題を広げていきました。ちなみに、クラシコムが運営する「北欧、暮らしの道具店」では、短編ドラマ『青葉家のテーブル』を継続的に制作し、今後もこれをIPに位置づけて展開していくようです。

明石:インフォメーション系の動画は、今後成長することはないかなと。どうやっても、その分野でテレビに勝つのは難しいんですよね。ニュースは過去のものになると価値がなく、消費も腐るのも速い。それをネットメディアが作るのは難しいと思います。

一方で、YouTuberが配信している動画は、IPとコミュニケーションの中間です。ニュースに比べて賞味期限の長いIPと、コミュニケーションとのバランスが取れているので、長く愛され続けるのだろうと。

最近『となりのトトロ』(編註:1988年公開)が、中国で新作映画として上映されて大人気だそうです。IPの賞味期限がいかに長いかを感じさせる話ですよね。今後の動画はIPにシフトしないと、制作リソースと収益のバランスが取れなくなります。

いずれにしても、世の中の人がどんな力学でコンテンツ見るのかを把握しなければなりません。例えば「腹筋のやり方」がテーマの動画は、世界中に100万件ほどあります。その中で、どの動画を見るのかを意識する時代だと思うんですよね。

僕だったら、Twitterで見つけてお気に入りになった『のがちゃんねる』の動画を見たい。同じような内容はあるのかもしれないけれど、どうせ見るなら“のがちゃん”が良いなって(笑)。どんな動画なのかは、ぜひ検索してみてくさい。

今の話は人に注目した動画選びですが、ウェブメディアなら「新R25」が特徴的ですよね。インタビュアーもインタビュイーもしっかりと見せることで、他との明確な差別化を図っていますし。ガンガン顔出しをして「誰が発信するのか」を見せないと、情報が伝わらない時代がこれから訪れると思います。

朽木:僕自身は個を売るタイプでライター業を始めたのですが、その限界をだんだん感じるようになりました。だから、チームプレイのできる環境に身を置くようになったんです。個のイメージがつかない方が進めやすい仕事がたくさんあるので、最近は記名をしない仕事も多いです。

もちろん個を出す強みもありますが、ライターや編集者として個を出さずとも戦える得意分野を持ちながら生き残っていきたいと思いますね。

 

ライターや編集者が動画の世界に入り込む道筋はあるのか?

宮脇:動画に興味はあるけれど、なかなか取り組めずに悩むメディア業界の人は多いように思います。実際、需要はあるのでしょうか。例えば、ライターが動画のシナリオライターとしてキャリアチェンジする、みたいな。

明石:めちゃくちゃ活躍できますよ。むしろ不足しているくらいです。ある一定のクオリティを保ちながら動画を制作するとなると、必ず分業制になります。ざっくり分けると、企画や構成、撮影、出演、編集の要素。動画の構成を考えるのは、ライターが担える役割ではないでしょうか。テレビの世界でいうと、放送作家と言われる職種ですね。

テレビと尺が全く異なるので、(ネットの)動画向けの放送作家が必要です。メディア業界でいうと、モメンタム・ホース代表の長谷川リョーくんが弟子としてかわいがっていた渡邊志門くんが、構成作家として道を切り拓いていますよね。でも、そのくらい。踏み込む人がまだまだ少ない領域なので、チャンスはたくさんあると思います。

宮脇:なるほど。日西さんもBuzzFeedで動画制作に関わっていたと思うのですが、明石さんのおっしゃることに納得感はありますか?

日西:私は動画に出演したりしていましたが、構成を作る人がいかに大事か実感しました。

構成って、言うなれば絵コンテ制作に近い仕事なんですよね。記事を作るときの全体像を描く作業にすごく似ています。面白い部分を面白いまま届けるためのストーリー作りが仕事なので、ライターや編集者の方に向いているのではないかなと。

朽木:僕はこれまでの会社で動画に関わったことはありません。手を挙げれば挑戦できた環境だったのですが、当時は記者として突き詰めたいと思っていたんですよね。ライターや編集者のキャリアの選択肢のひとつとして、動画業界を捉えるのもありだと思いますし、どう道筋を描くか次第のような気がしますね。

明石:ONE MEDIAでは、すべての動画を内製していたのですが、だんだん限界を感じるようになってきているので、今はクリエイターネットワークの構築にも取り組んでいます。

好きなジャンルや得意分野のあるクリエイターを集めて企画ごとに依頼をして、コンテ作りはライターや編集者とも協力して。体制を整えることで、動画作りがだんだんとスムーズになってきています。

 

5G時代、これからの未来をどこで生きていく?

宮脇:ライターや編集者が動画の領域に踏み込むためのキャリアの話を伺ってきました。朽木さんに聞きたいのですが、朝日新聞はオールドメディアとしてインターネットでも存在感を見せています。若手がキャリアパスを意識して入社する潮流はあるんですか?

朽木:結構ありますね。ただ、イメージと違った部分も多いんですよ。新聞社って、自分たちの活動や知見をあまり外に発信しないのでなかなか見えませんが、実際はウェブの知見が豊富な上司もいますし、僕のチームは半分が年下で、インターナショナルだったり、エンジニアのスキルを持っていたりと、人材は豊富です。この道を選んだのは、未来を考えたとき、まだデジタル化していない領域に入り込んで、価値を発揮しながら仕事をしたほうが面白いだろうと考えたからですが、結果的には多様な人材とチームプレーをすることによるスキルアップができる。うれしい誤算でしたね。

今は「オールドメディア VS ウェブメディア」のような構図でよく語られますが、いがみ合っている場合ではなく、メディア業界全体を盛り上げて底上げしていくほうがよっぽど重要です。そして、新聞社だからこそ伝えられることや問題提起をしながら社会にいい影響を与えられるよう、がんばりたいですね。

宮脇:日西さんはBuzzFeedを退職されたばかりですが、次のステップはすでに考えられていらっしゃるんですか?

日西:具体的な道筋は決まっていないです。ただ、BuzzFeedではSNSを通してできることすべてをやってきた感覚がありましたし、実績となる成功事例も作れました。今後は、情報を持っているのに活用できていない方々のサポートができる仕事に関われたらと、漠然と思っています。

例えば、新聞社や放送局では、撮影で使用するフリップなんか使い捨てが当たり前だそうです。放映のために一生懸命作られたものなら、SNSで発信したらいいのでは……と思っていて。SNSや、さらに古巣のSEO会社で学んでいたことを生かして、新しい仕事を作ることができたらいいな、と。

明石:その視点は面白いですね。いま、雑誌でも同じような現象が起きています。雑誌の表紙になるのは1枚だけでも、撮影現場ではいろいろな写真を撮影しているじゃないですか。以前マガジンハウスの方と、アザーカットのみを活用したInstagramストーリーズを制作しました。

メインコンテンツを作るときに生まれる副産物は、SNSでの活用に適していると思います。ただ、日西さんのように、対象が放送局となると、個人で仕事をするのはなかなか大変そうですね。個人と企業とで仕事になる仕組みの導入が必要かもしれません。

宮脇:興味関心は多岐に渡るようですね。では最後に、みなさんが5年後に見たい未来をうかがって終わりにしましょうか。

朽木:難しい質問ですね……(笑)。5年前の自分は新聞社に入社できるなんて思ってもいないはずですから。僕自身としては、プレイヤーとしては記者をがんばりつつ、編集者としてマネジメントの業務に注力していきたいですね。

編集を5割、会社のデジタル全般の戦略立案を2割、記者を3割くらいでバランスを取りながら、業界の環境作りに取り組めたら。自分と、自分が好きな人たちが、安心して働けるための場所を作るのが夢です。

日西:5年後って本当に想像がつかないんですよね。たしか5年前はライターを始めたばかりだったような……。私は最近、「Voicy」というボイスメディアで発信を始めたのですが、書くのに比べて話すのってすごく楽なんですよね。聞く側も音声なら「ながら」で聞くことが可能ですから。

だから今後は、可処分時間の使い方を意識して、自らが発信できることを増やしていきたいと思っています。

明石:5年前というと、ちょうど会社を立ち上げた頃ですね。雰囲気で動画を始めて、会社がつぶれそうになって、いつしかご神託みたいなキャラになっていたわけなんですけれど(笑)。

僕は1982年生まれなのですが、大学に入った頃にブログが流行って、ライターや編集者を目指す人も増えました。そして、一時期よりも単価が上がって、比較的生存しやすい業界ができてきたように思います。

今後、動画の世界にも同じような循環が起こると予想しています。iPhoneでしか動画を撮ったことのない若者も、5年後には業界の一端を担っているかもしれません。

だから、来るそのときのために、個人ではつながることのできないアライアンスや企業とのつながりを作っておきたいですね。会社で得た資産と個人とをつなぎながら、社会に対して変化量の大きい仕事ができたらと考えています。

 

トークセッション終了後の質問タイムでは、Session1の登壇者でもあったヨッピーさんやデイリーポータルZ編集長の林さんからも、エッジの効いた質問が登壇者へ次々と投げかけられました。

イベントの締めくくりだったこともあり、質疑応答もまったく絶えない様子が印象的だったSession3。参加者のみなさんも、真剣にメモしたり笑ったりと、非常に大盛り上がりでした。

本セッションを含めて、ノオト15周年イベントではさまざまなテーマでトークセッションを開催しました。前編、中編も、ぜひ以下のリンクからチェックしてみてください。最後までご覧いただきありがとうございました!

(執筆:鈴木しの 撮影:佐倉ひとみ)

・メディアを続けるためには? DPZ林×ヨッピー×ノオト宮脇がネットコンテンツ15年を振り返る #ノオト15th レポート(前編)

・ノオトの編集者って何しているの? 最近のコンテンツ制作裏事情 #ノオト15th レポート(中編)